2021年09月28日掲載
医師・歯科医師限定

皮膚と多臓器病変をつなぐ:全身性強皮症

2021年09月28日掲載
医師・歯科医師限定

東京大学大学院医学系研究科・医学部 皮膚科准教授

浅野 善英先生

全身性強皮症は、皮膚および内臓諸臓器の線維化と血管障害を特徴とする全身性の自己免疫疾患である。東京大学大学院医学系研究科・医学部 皮膚科学 准教授の浅野 善英氏は、第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)で行われた会頭特別企画1の中で、臓器横断的な基本病態と各臓器に特異的な修飾因子に関する研究データに基づく全身性強皮症の病態理解について解説した。

※未発表データを含む講演のため内容を一部割愛しています

全身性強皮症の主要病態と疾病因子

全身性強皮症は線維化、血管障害、自己免疫炎症を主要3病態とする全身性の自己免疫疾患である。その詳細な病態は未だ明らかになっていないが、ほかの膠原病と同様、遺伝因子と環境因子の相互作用により疾病因子が蓄積し、複雑な病態が形成されると考えられている。

ただし、全身性強皮症では遺伝因子と環境因子の果たす役割がほかの膠原病とは異なっていることが知られている。それを裏付けるのが一卵性と二卵性の双生児で診断一致率が低く、また一卵性と二卵性の間に差がないことを示した研究データだ。これに対し、ほかの膠原病では双生児における診断一致率は高く、また二卵性と比べて一卵性のほうが高い。このことから、全身性強皮症では環境因子が疾患の形質を規定すると考えられている。

<双生児における全身性強皮症の診断一致率>

  • 一卵性双生児……4.2%(1/24)
  • 二卵性双生児……5.6%(1/18)

Feghali-Bostwick C, et al. Arthritis Rheum 2003より

一方、遺伝因子に関しては、疾患感受性と重症度を規定する重要な因子とされている。そこで浅野氏は「環境因子の影響を受けた疾病因子を同定すれば、全身性強皮症の一元的な病態理解が可能になるのではないか」と考え、検討を重ねてきた。その中で同氏が着目したのが、環境因子と全身性強皮症の発症をつなぐ機序の1つとして報告されていたエピジェネティック制御だ。

従来から、ヒストンの化学的修飾やDNAのメチル化などのエピジェネティック制御によって発現が変化している遺伝子に、重要な疾病因子が隠れている可能性があると考えられてきた。こうした中、2006年に全身性強皮症患者の培養皮膚線維芽細胞を用いた基礎研究において、エピジェネティック制御により転写因子のFLI1の発現が恒常的に低下していたとするイギリスの研究結果が報告された。その後、浅野氏らの研究では、このFLI1の発現低下によってTGF-β刺激を模倣するような異常が誘導されることも確認された。

さらに2014年、浅野氏らはもう1つの疾病因子として転写因子であるKLF5を同定したことを報告している。KLF5もまた、全身性強皮症患者の培養皮膚線維芽細胞においてエピジェネティック制御により発現が低下し、それによってCTGFの発現が亢進していることが確認された。なお、全身性強皮症の線維化のプロセスではTGF-β細胞の活性化とCTGFの発現亢進が重要な役割を果たしていることが従来の研究で示されている。

2つの転写因子の発現異常を模倣したマウスで病態を忠実に再現

これらの知見に基づき、浅野氏らは全身性強皮症の線維化病態を再現するモデルマウスとして、KLF5とFLI1の2つの転写因子の二重ヘテロ欠損マウスを作製した。

その結果、同モデルマウスにおいて、皮膚硬化や間質性肺疾患、肺高血圧症、心線維化、消化管運動障害、創傷治癒遅延といった多彩な臓器病変が忠実に再現された。また、全身性強皮症に特徴的な毛細血管の消失や細動脈狭窄なども確認され、主要3病態である線維化、血管障害、自己免疫炎症を再現できることが分かった。


浅野氏 講演資料より

このモデルマウスでは、全身性強皮症に特異的な病態カスケード、つまり自己免疫炎症に始まり血管障害が起こり、最終的に線維化に至るというプロセスも再現された。さらに分子メカニズムに関しても、KLF5とFLI1の発現が低下することで線維芽細胞や血管内皮細胞、上皮細胞、マクロファージ、T細胞など各細胞において全身性強皮症に類似した形質変化が誘導され、これらの細胞の相互作用によって高いレベルで全身性強皮症を模した各臓器障害が生じてくることが確認された。

以上のデータを紹介したうえで、浅野氏は「エピジェネティック制御により発現が変化している2つの転写因子に着目することで、全身性強皮症の病態を高いレベルで再現することができた。これらの所見は、従来の病態仮説が正しいことを示唆するものである」と説明した。

選択的な臓器線維化には上皮細胞の異常が関与

全身性強皮症の皮膚病変においては、免疫担当細胞、血管構成細胞、線維芽細胞の3種類の細胞の相互作用により高度な線維化が誘導されていると考えられている。これらの細胞は全ての臓器に存在しており、臓器横断的な線維化機序を制御する3つの細胞群と捉えることができる。

一方で、線維化病態における皮膚に特異的な修飾因子となる細胞として、表皮ケラチノサイトが挙げられる。そこで浅野氏らは、皮膚の線維化の特殊性について調べる目的で、上皮細胞特異的FLI1欠失マウスを作製した。その結果、同マウスでは全身性強皮症に類似した表皮角化細胞の形質変化が生じていることが確認された。また、各臓器における線維化の有無について調べたところ、皮膚、食道、肺の3つの臓器で自然に線維化が生じていることも突き止めた。


浅野氏 講演資料より

では、これら3つの臓器で線維化が生じる機序はどのようなものなのか。浅野氏らはこの点についても検討を進めたところ、皮膚と食道において、重層扁平上皮細胞の基底層で発現しているケラチンの1つ、ケラチン(K)14の発現が認められた。なお、重層扁平上皮細胞は皮膚、食道、口腔粘膜に特異的に存在し、炎症性サイトカインや線維化誘導因子を産生することが分かっている。つまり、上皮細胞特異的FLI1欠失マウスの皮膚や食道における線維化には重層扁平上皮細胞が関与していると考えられた。

一方、肺にはK14を発現する上皮細胞は存在しないため、皮膚や食道とは異なる機序が想定される。そこで浅野氏らが注目したのが胸腺だ。胸腺には2種類の上皮細胞があるが、このうち胸腺髄質上皮細胞(mTEC)ではK14を発現していることが分かっている。そこで、mTECでFLI1を欠失させたマウスを作製したところ、胸腺が委縮し、免疫寛容の誘導に重要なautoimmune regulatory(AIRE)の発現の低下が認められた。

浅野氏は、こうした一連の研究から「全身性強皮症では皮膚、食道、肺が線維化の起こる三大臓器だが、その選択的な臓器線維化には上皮細胞の異常が関与していることが明らかになってきた」と述べた。

講演のまとめ

浅野氏の講演のポイントを以下にまとめる。

  • 全身性強皮症では環境因子が疾患の形質を規定し、遺伝因子が疾患感受性と重症度を規定する重要な因子と考えられている。
  • 全身性強皮症患者においては、エピジェネティック制御により転写因子のFLI1の発現が恒常的に低下しており、それによりTGF-β刺激を模倣するような異常が誘導される。
  • 同様に、KLF5も培養皮膚線維芽細胞においてエピジェネティック制御により発現が低下し、それによってCTGFの発現が亢進している。
  • 全身性強皮症の線維化病態を再現するモデルマウスとして、KLF5とFLI1の2つの転写因子の二重ヘテロ欠損マウスを作製したところ、皮膚硬化や間質性肺疾患、肺高血圧症、心線維化、消化管運動障害、創傷治癒遅延といった多彩な臓器病変や、全身性強皮症に特徴的な毛細血管の消失や細動脈狭窄など、主要3病態である線維化、血管障害、自己免疫炎症を再現できることが分かった。
  • エピジェネティック制御により発現が変化している2つの転写因子に着目することで、全身性強皮症の病態を高いレベルで再現することができたと同時に、従来の病態仮説が正しいことが示唆された。
  • 全身性強皮症における選択的な臓器線維化には、上皮細胞の異常が関与していることが明らかになってきた。

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