2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】行動変容に必要なデジタル化、日本の議論に欠けている「データは患者のもの」の視点(1000字)

2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長/日本糖尿病学会理事長

植木 浩二郎先生

糖尿病の改善や重症化予防に、食事や運動療法といった行動変容が重要なことはいうまでもない。PHR(Personal Health Record)やウエアラブル端末を使って行動変容を促す研究を行っているのだが、きれいなデータが出ない。

行動変容を促すモチベーションは「数値」であることが分かっている。我々が行ったRCT「J-DOIT3(2型糖尿病患者を対象とした血管合併症抑制のための強化療法と従来治療とのランダム化比較試験)」の解析で、HbA1cの低下が糖尿病患者のQOL改善に大きく貢献していた。HbA1cが低下しても体で感じることはないが、数値をみることで患者の幸福感が増す。

問題は、現在のPHRがEHR(Electronic Health Record:電子カルテの情報)とつながっていないため、EHRの情報が自動的にPHRに反映されないことだ。ウエアラブル端末との連動で運動量や血圧、体重を自動で取り込むことはできるが、それらの数値は患者の幸福感につながらない。

私自身も診療をしていて実感するのは、患者の検査データが“患者のもの”になっていないということだ。実にばからしいが、毎回データを紙にプリントして患者に渡している。ただし、そうしたデータを渡しても、たとえばそこに書かれている「クレアチニン」の数値が何を指すか分かっていない患者が大多数だろう。それで糖尿病腎症の重症化予防などできるはずがない。EHRとPHRがつながっていて、「クレアチニン」という項目を選ぶと、最新の数値や直近までの推移、その数値の意味、なぜ高くなりある数値以上になるとどんな怖いことが自分に起きるか、どうすれば下げられるのか――そういったことが簡単に見ることができれば、皆行動変容を起こすだろう。今ならそういったことは簡単にできるはずだ。それができていないのが、本当の意味で行動変容を妨げている一番の要因ではないかと考える。

現在の医療デジタル化は、EHRのデータを大量に集めてビッグデータ解析するといった話ばかりで、患者に還元するという仕組みが抜けている。

現在、「健康アプリ」「治療アプリ」といったものが巷にあふれているが、標準化をしていないのでアプリを乗り換えるとそれまでのデータを移行できない。医療情報学会とコンソーシアムをつくり、最低限の規格を統一してデータポータビリティーを保証するように働きかけているが、データは患者本人のものだという視点が、日本では決定的に欠けていると思われる。

会員登録をすると、
記事全文が読めるページに遷移できます。

会員登録して全文を読む

医師について

新着記事