2023年09月14日掲載
医師・歯科医師限定

実は身近な小児希少難病、専門医へのアクセス改善へ――健やか親子支援協会の取り組み

2023年09月14日掲載
医師・歯科医師限定

藤田医科大学 がん医療研究センター センター長/慶應義塾大学 医学部 名誉教授

佐谷 秀行先生

希少難病の子どもたちと家族を支える"健やか親子支援協会”。2023年7月に早期発見を目指した検索サイトが大幅リニューアルされ、専門医へのアクセス改善が期待されている。理事を務める佐谷 秀行先生(藤田医科大学 がん医療研究センター センター長、慶應義塾大学 医学部 名誉教授)に希少難病の子どもたちと家族が抱える困難、それを支える健やか親子支援協会の取り組み、リニューアルした検索サイトの狙い、新たな課題”ドラッグ・ロス”などを聞いた。

全国に計1,000万人 実は身近な希少難病

小児希少難病は罹患数が非常に少ない病気で、疾患数としては7,000種類以上ある。しかし、希少難病全体としてみると罹患率は非常に高く、世界人口の17人に1人といわれている。日本国内の患者数は合計750万~1,000万人と推定されている1)。問題は、一つひとつの疾患の患者数が少ないことで薬剤や治療法の開発が進みにくいこと、専門医が少なく医師の間でも疾患に対する理解度にばらつきがあることだ。

健やか親子支援協会は2015年に設立された団体で、希少難病の子どもたちとそのご家族の支援を行っている。活動は▽”希少難病の検査機関・専門医の検索サイト”の構築▽検査を行った際の検体輸送サービスの提供▽生活基盤を安定させるためのご家族の就労支援や経済的支援を目的とした基金・保険の創設▽希少難病に対する啓発・広報――など、多岐にわたる。

1)  NPO法人 希少難病ネットつながる

早期発見目指し、検索サイトを大幅リニューアル

今、特に力を入れて取り組んでいるのは"希少難病の検査機関・専門医の検索サイト”の充実だ。2023年7月に行った大幅リニューアルで、掲載している疾患数を70前後から189に増加させた。多くの希少難病の患者さんは、なかなか診断に至らず、治療を開始するまでに長い時間と労力を費やすことが少なくない。小児で発症した場合は、患者さん本人だけでなく家族にも大きな負担が生じる。

この検索サイトは広く一般にも公開しているが、主としてかかりつけの小児科医に閲覧いただくことを想定して制作した。「どこに行けば専門的な検査を受けられるか、専門医はどこにいるのか」の情報を提供することで、早期に専門医にアクセスし診断に結び付くことを目指している。希少難病を疑ったとき、患者さんやご家族から質問されたときなど、ぜひ積極的にご活用いただきたい。

日本で薬が使えない 新たな課題”ドラッグ・ロス”

まだあまり知られていないが、実は"ドラッグ・ロス”と呼ばれる課題が深刻だ。がん分野で注目され始めているが、希少難病もその影響を受ける可能性が十分にあり得る。類似する"ドラッグ・ラグ”の問題は、海外で承認されている薬が日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差のことだ。結果的に日本で薬が販売されるものの販売までに要した期間がほかの国よりも長くかかることが多かったが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が新薬の審査迅速化を進めたため、現在ではかなり改善している。

これに対し"ドラッグ・ロス”は未承認薬の増加、すなわちほかの国では承認されている薬が日本では承認されず使えないという問題だ。現在欧米では、新薬のほとんどはベンチャー企業が開発している。これらの企業は国際的に展開できるほど資金がないため、企業が拠点を置いている国のみで臨床試験を実施し、その国のみで承認申請を行う。結果として日本で開発の着手がされない、すなわち臨床試験が行われないことによって、日本ではいつまでたっても使用されないという状況が生じている。

私が長年研究を続けてきた希少難病の1つであるレックリングハウゼン病の場合、学会と患者会が協力して臨床試験に参加する患者さんを集め、治療薬の承認に至った。しかし、もっと患者数が少ない疾患の場合、臨床試験が実施できるだけの患者数を集めることは困難だ。健やか親子支援協会としては、ホームページなどでの情報発信を通じて、製薬企業や医療機器メーカーの方に「実際にどのような疾患が問題になっているのか」を知っていただき、開発を前向きに検討いただくことも大切だと考えている。

今後、ゲノム情報の解読が進めば遺伝子変異が特定されるなどして、これまで1つの疾患として包括されてきた病気も細分化されていくだろう。がん領域では取り組みがされ始めているが、すでにほかの疾患に用いられている薬剤を転用して別の病気を治療することも可能になる。そのときには、利用可能な薬剤の情報と共に、開発の段階や治験が行われている場所などの情報を集約し発信していくことが必要であり、非常に大きな意義があることだ。今後はこのような情報発信についても検討していきたい。

がんも希少難病も はじまりは1人の患者さんとの出会い

私は脳神経外科医としてキャリアをスタートした。臨床を続けるなかで脳腫瘍という難治性の病気に出合い、「なんとかしたい」という思いから、基礎研究に取り組み米国に留学した。

研修医の時に、レックリングハウゼン病の方を担当したことがあった。レックリングハウゼン病はがんを発症しやすいことが分かっており、その方も脳腫瘍を患っていた。当時脳腫瘍の治療は難しかったが、もしレックリングハウゼン病の原因遺伝子を特定し解析することができれば、脳腫瘍の治療にも役立つのではないかと希望を抱いていた。

そのような思いを胸に米国で研究を続けていたある日、ユタ大学とミシガン大学の研究チームがほぼ同時に、レックリングハウゼン病の原因遺伝子を発見したというニュースが飛び込んできた。そこで、以前から考えていた"脳腫瘍におけるレックリングハウゼン病の遺伝子解析”の研究を始めた。研究を行うための資金は、レックリングハウゼン病の患者団体が公募していた助成制度によるものだ。つまり、最初に私の研究を支えてくれたのは患者さんたちだった。そのおかげで私は研究を進め、成果をいくつかの論文にまとめることもできた。

この出来事がきっかけとなり、患者会の方々とのお付き合いが始まった。毎年患者会のイベントに参加して研究の進捗を話すうちに、脳腫瘍のみならずレックリングハウゼン病そのものに大きな興味を抱くようになった。

患者さんへの恩返しのつもりで

アメリカで研究室が運営できたのは、レックリングハウゼン病の患者会のおかげだ。恩返しのつもりで、ライフワークであるがんの研究と並行して、レックリングハウゼン病の研究も忘れずに続けてきた。

日本に帰国してからは、レックリングハウゼン病の厚生労働省の研究班に参加し、故・新村 眞人先生(東京慈恵会医科大学 名誉教授)とともに発起人として日本レックリングハウゼン病学会を立ち上げた。学会を通じて、新村先生をはじめとした多くの先生方と互いに協力し合いながら、レックリングハウゼン病と闘うためのさまざまな活動を行ってきた。その過程で、患者会の方々とも非常によい関係が築けてきた。

健やか親子支援協会に関わるようになったのは、この頃からだ。事務局の方がそのほかの希少疾患でもレックリングハウゼン病と同じように、医療者と患者・家族が手を携えて共に病に向き合っていく関係を作れればとお考えになり、お声がけいただいた。これからも健やか親子支援協会を通じて、希少難病の方々のために活動を続けていきたい。

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