2022年04月07日掲載
医師・歯科医師限定

【論文紹介】mRNA-1273 vaccine-induced antibodies maintain Fc effector functions across SARS-CoV-2 variants of concern

2022年04月07日掲載
医師・歯科医師限定

ダナ・ファーバー癌研究所 メディカルオンコロジー分野

郭 悠先生

論文タイトル(和文)

mRNA-1273ワクチンにより誘導された抗体は懸念される変異株(VOC)に有効なFcエフェクター機能を有する

選択理由

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックはオミクロン株を含め、これまでにさまざまな変異株が出現し、感染流行の縮小・拡大を繰り返している。こうしたなか、VOCに有効なワクチン開発が求められているが、モデルナのmRNA-1273ワクチン、ファイザー/ビオンテックのBNT162b2ワクチン、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンによるCOVID-19予防効果がいわれている。

SARS-CoV-2のVOCはreceptor-binding domain(RBD)を含めたスパイク(S)タンパク質のS1領域に変異が生じ、タンパク質の安定性やアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体結合の方向性が変化し、感染性が上がっている。中和抗体の多くはSARS-CoV-2のACE2への結合部位を標的とするため、変異により中和活性が低下する。一方で、SARS-CoV-2自然感染やCOVID-19ワクチン接種により、中和活性上昇のほか抗体が単球や好中球、貪食細胞、補体を介して免疫反応を高めるエフェクター機能が認められている。本研究では、これらエフェクター機能に重要な、抗体のFc機能にVOCが及ぼす影響を評価し、抗体を介した免疫反応の中和活性とは別の側面を評価している点で興味深い。

要旨

Sタンパク質に結合する血漿イムノグロブリン(Ig)アイソタイプ/サブクラスの比較

  • 自然感染例はアメリカのカリフォルニア、テキサス、ノースカロライナ、フロリダの各州で2020年5月から8月までに無症状~中等症のSARS-CoV-2感染症と診断された19歳から62歳の回復期患者305人(うち男性84%)を対象とした。
  • ワクチン症例はmRNA-1273第1相臨床試験(ClinicalTrials.gov number NCT04283461)の参加者、18歳から55歳の44人(うち男性49%)を対象とした。
  • 自然感染例では血漿IgG1、IgG3、IgM、IgAのB.1.1.7(アルファ株)-like (N501YΔ69-70)Sタンパク質およびB.1.351(ベータ株)/P.1(ガンマ株)にみられるE484K変異Sタンパク質への結合が低下していたが、ワクチン症例ではこれら血漿IgのB.1.1.7-like以外の変異Sタンパク質への結合は野生株と同等もしくは上がっていた。

産生抗体のFc受容体(FcR)結合能

  • 自然感染例ではSARS-CoV-2抗体の活性型FcγR2aへの結合がワクチン症例より低いが、抑制型FcγR2bへの結合は増強していた。また、変異Sタンパク結合抗体のFcR結合が低下しており、特にD614G・E484K抗体においては抗体価が低い例でその傾向がより顕著にみられた。これは既感染例でも抗体価が低い場合は変異株に再感染するリスクがあることを示している。
  • 一方、ワクチン症例では低抗体価の自然感染例よりも変異Sタンパク結合抗体のFcR結合能は維持されており、RBD抗体も変異株への結合が低下しているものの、FcR結合活性が消失したわけではなかった。

Fcエフェクター機能

  • 自然感染例では主にB.1.351へのantibody-dependent complement deposition(ADCD)低下がみられ、ワクチン症例ではB.1.1.7へのわずかなADCD低下にとどまった。
  • また、自然感染例ではB.1.1.7に対するantibody-dependent neutrophil phagocytosis (ADNP)消失と、B.1.351に対する ADNP低下がみられた。
  • P.1に対してはADCD、ADNPともに上昇していた。
  • ワクチン症例はB.1.1.7とP.1へのADNPは維持されていたが、B.1.351に関しては著明に低下していた。
  • 全ての変異株に対してのantibody-dependent monocyte phagocytosis(ADCP)は両グループで低下していた。
  • ワクチン接種後の抗体による補体および好中球活性化能はB.1.1.7とP.1に対しては野生株と同等かそれ以上、反対にB.1.351に対しては低下していた。

議論となる点・解釈

  • 本症例では抗体のFcエフェクター機能による、マクロファージやNK細胞などの免疫細胞を介したADCP、好中球を介したADNP、補体を介したADCDをそれぞれ評価している。
  • 自然感染例でもワクチン接種例でも多く誘導されている非中和抗体を含めた抗SARS-CoV-2タンパク結合抗体のFcエフェクター機能による感染抑制効果は総合的な免疫能の評価にも重要である。
  • 本研究の自然感染例の感染時期が不明であり、ワクチン症例と条件が異なっている可能性がある。
  • 変異株を含めたSタンパク質やRBDへの結合はアイソタイプ/サブクラスを含めてテストされているが、中和能評価がされていない。
  • 変異株の自然感染+ワクチン接種例ではオミクロン株の中和能が得られる報告もある。
  • 今後、ブースター接種の効果やオミクロン株を含めた変異株へのFcエフェクター機能が必要になる。

論文からの学び

誘導された中和抗体の数か月後の抗体価低下やオミクロン株を含めた変異株は中和活性が下がっていることが指摘されており、再感染や感染拡大が危惧され続けている。しかし、本研究からは中和能だけでなく抗体による補体・貪食細胞などを介した免疫賦活能が評価され、ワクチン接種によりこれら免疫誘導が起きていることが示された。また、自然感染では個人ごとに獲得される免疫は異なるが、ワクチン接種では抗体によるFcエフェクター機能を介した一定の免疫能が得られていることが証明され、今後中和能に限らないワクチン効果の評価へとつながる。

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