2021年11月24日掲載
医師・歯科医師限定

糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の腎症に対する効果とエビデンス

2021年11月24日掲載
医師・歯科医師限定

島根大学医学部 内科学講座 内科学第一 教授

金﨑 啓造先生

糖尿病による腎疾患に苦しむ患者は多い。これを撲滅するためには、糖尿病治療薬の腎症に対する効果について理解することが重要だ。

島根大学医学部 内科学講座 内科学第一の金﨑 啓造氏は、第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日)で行われた講演の中で、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬を中心に、糖尿病治療薬の腎症に対する効果とエビデンスについて解説した。

ハイリスク糖尿病の予知

糖尿病に関連する腎疾患を撲滅するためには「心腎連関」を常に念頭に置きながら糖尿病患者の診療を行う必要がある。そのためには、ハイリスク糖尿病をいかにして予知するかが重要だ。

そもそも糖尿病と糖代謝異常は、1型、2型、そのほかの特定の機序・疾病によるもの、妊娠糖尿病の4つに大別されるが、金﨑氏は「この分類のみに縛られて治療を進めていくのは果たして適切なのだろうか」と問題提起した。というのも、この分類は糖代謝異常の成因によるものであり、重症化予測や合併症予後・予測の観点から作成されたものではないためだ。

そして、金﨑氏は2018年にLancetに報告された論文を紹介した。本論文では糖尿病になる人を以下のような5つのクラスターに分類している。

・クラスター1……GAD抗体陽性、若年発症、低BMI、インスリン不足、重度糖代謝異常

・クラスター2……GAD抗体陰性、若年発症、低BMI、インスリン不足、重度糖代謝異常

・クラスター3……高BMI、インスリン抵抗性あり、NAFLD陽性

・クラスター4……高BMI、インスリン抵抗性なし

・クラスター5……高齢発症、軽度糖代謝異常

そして、これら5つのクラスターに対し、CKD・顕性アルブミン尿・末期腎不全・網膜症・心血管イベントの合併症リスクについて調査した。すると、心臓や腎臓の合併症リスクについては、クラスター3がもっともリスクが高い群であることが分かった。そのため、クラスター3に該当するような患者に対しては、より心腎連関を意識しながら治療を進めていく必要があるだろうと金﨑氏は見解を示した。

上述したものは糖尿病発症後の分類であるが、糖尿病発症前であっても糖負荷試験のデータベースを用いて予後予測することが可能との報告もある。以下はそのクラスター分類である。

金﨑氏提供

これらのうち、高リスクのクラスター6は、インスリン抵抗性、内臓脂肪、腎症を認め、腎門部に脂肪沈着もあるが、インスリン分泌能の大きな低下はみられず、血糖値についても正常〜耐糖能異常の範囲にとどまっている。すなわち、こうした患者では、高インスリン血症を伴っていると考えられるだろう。金﨑氏は、「治療を行ううえでは、高インスリン血症を無秩序に起こすことは絶対に避けるべきだ」と言及した。

高インスリン血症回避の重要性は、心臓におけるTCAサイクルの観点からもいえることだ。空腹時のエネルギー源として、末梢組織はグルコースが取り込むが、心臓はケトンや遊離脂肪酸を取り込むことでTCAサイクル(クエン酸回路)を動かしていることが、2020年のScienceにて報告されている。

しかしインスリンには、遊離脂肪酸を脂肪組織に押し込めたりケトン体産生を抑制したりする作用があるため、血中のインスリン濃度が高くなってしまうと心臓が使えるエネルギーがなくなってしまう可能性もある。こうした理由からも、無秩序な高インスリン血症の危険性について認識すべきだと金﨑氏は強調した。

GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬

次に金﨑氏はGLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬に関する話題に移し、まずはDPP-4阻害薬に触れた。DPP-4は多彩な機能を有するタンパクであり、酵素活性依存的あるいは非依存的な機序によって、臓器障害をもたらすと考えられている。そのためDPP-4阻害薬を使うことで、こうした機序を抑制して臓器障害を抑えることができるはずだ。しかし臨床試験では、そのような結果がまったく出てきていない。

GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の効果について複数の試験結果をまとめた調査では、DPP-4阻害薬に比べて明らかにGLP-1受容体作動薬のほうがCVアウトカムや心不全を抑制する傾向にあることが分かっている。

金﨑氏提供

GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬の違い

それでは、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬では何が違うのだろうか。

金﨑氏はまずGLP-1濃度の違いに着目した。DPP-4阻害薬(ビルダグリプチン)の試験では3~4倍血中濃度を増加させることが分かっているのに対し、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)の試験では、DPP-4阻害薬で増加したGLP-1のさらに200倍もリラグルチド血中濃度を増加させることが分かっている。

「しかしGLP-1濃度の違いだけでは説明できないだろう」と述べたうえで、ある研究について紹介した。本研究では、DPP-4阻害薬に加えてメトホルミンを投与するかしないかによって、CVイベントにどのような影響をもたらすのかを調査している。すると、メトホルミンを加えた群ではCVイベントが抑制されているのに対し、メトホルミンを加えていない群では不利益を及ぼす可能性が示されたのだ。


上段:DPP-4阻害薬にメトホルミンを加えた群

下段:DPP-4阻害薬にメトホルミンを加えていない群

Crowley et al Diabetes Care 2017 Dec;40(12):1787-1789.より引用

なぜこのような結果が示されるのかについて明らかな結論は出ていないが、DPP-4阻害薬のGLP-1非依存的機序が関与しているのではないかと金﨑氏は述べる。

DPP-4阻害薬には「GLP-1依存的機序」と「GLP-1非依存的機序」があり、前者が臓器保護にはたらくことは複数の研究で明らかになっている。後者についても、臓器保護にはたらくことを金﨑氏自身も報告している。一方で、GLP-1非依存的機序は臓器障害も引き起こしている可能性があり、メトホルミンの投与がそのシグナルを遮断している可能性があるのではないかとの見解を示した。

GLP-1による腎保護効果

GLP-1は、血管の拡張、ナトリウム利尿の増加、酸化ストレスの抑制などの作用によって腎保護に寄与しているのではないかと考えられているが、明らかなことは分かっていない。

しかしGLP-1による腎保護効果について、有効性を示唆する試験結果がある。

中等度~重度の腎障害がある2型糖尿病患者に対する、GLP-1受容体作動薬のデュラグルチドとインスリングラルギンの有効性と安全性を検証した「AWARD-7試験」では、eGFRの推移について示された。これによると、顕性アルブミン尿がある患者でインスリングラルギンを使った群ではeGFRが年間6ml/min/1.73m2程度低下しているのに対し、デュラグルチドを使った群ではeGFRの大きな低下はみられなかった。顕性アルブミン尿がない患者でも同様の結果が得られた。金﨑氏はGLP-1受容体作動薬による腎保護効果について「今後さらなる試験でよい結果が得られることを期待している」と語った。

SGLT2阻害薬について

SGLT2阻害薬による腎保護への効果――解糖系抑制とケトン体増加の観点から

続いて、金﨑氏はSGLT2阻害薬について解説した。SGLT2阻害薬は「血行動態依存性」と「血行動態非依存性」の機序が複合して腎保護効果を発揮している。実臨床でもSGLT2阻害薬の使用によって、驚くほど尿タンパクが減少したり、腎機能の低下を抑制できたりする症例を経験しているといい、「ポストSGLT2阻害薬時代に入っているだろう」と金﨑氏は述べる。

そしてSGLT2阻害薬による腎保護効果について、近年明らかになりつつあるメカニズムの一部について紹介し、まずはSGLT2阻害薬による解糖系抑制に焦点を当てた。

SGLT2阻害薬は血糖を低下させる役割を担っているが、SGLT2を介した近位尿細管へのブドウ糖の莫大な流入は、異常な解糖系を誘導することが報告されている。金﨑氏らはこの異常な解糖系が、がん細胞で観察されるのと同様の変化を誘導し、尿細管細胞のパーシャルなEMTプログラム誘導とともに周囲細胞線維化を惹起するとし、SGLT2阻害薬を投与することでこれらを抑制できるのではないかと報告している。

続いてSGLT2阻害薬投与に伴うケトン体増加が、腎保護にもたらす効果について解説した。障害された尿細管細胞では通常エネルギーとして使えるはずの脂肪酸を使えなくなるが、ケトン体は使うことができるため、尿細管細胞は正常なはたらきを保てるという報告がある。

さらに、ケトン体はmTORの異常な活性を抑制することも知られている。mTORの異常な活性化は、解糖系を誘導して多発性嚢胞腎を引き起こしたり、ミトコンドリア障害を引き起こしたりするという報告もあり、SGLT2阻害薬の使用によって、こうした影響を抑制する効果が期待できるという。

SGLT2阻害薬の腎保護効果を示すデータ

それでは、SGLT2阻害薬はどのような患者で効果が得られやすいのだろうか。金﨑氏は臨床試験結果を基に、心臓・腎臓合併症(MACE、心血管死、心不全、腎臓)に対するSGLT2阻害薬の介入効果について傾向をまとめている。ここでは既往の有無や検査値といった以下4つの観点から、SGLT2阻害薬の介入効果をみている。

・ASCVD(動脈硬化性心血管疾患)既往の有無

・心不全既往の有無

・eGFR値

・UACR値

調査の結果、心臓の合併症に関しては、既往の有無や数値によって効果の強さに差はあるものの基本的にはよい影響を及ぼしており、腎臓の合併症に関してはどの患者であっても大差なく同じようによい効果をもたらしていることが分かった。こうした結果を踏まえて「腎臓の保護という観点から、SGLT2阻害薬をうまく使わない選択肢はないだろう」と述べた。

腎臓がよくなれば体液量の是正が図られ、心臓によい影響を与える。これによって心拍出量が改善したり、有効循環血液量が増加したりすると、中心静脈圧の低下、腎血流量改善など相互作用が期待できる。さらに、こうした血行動態依存的な機序だけではなく、交感神経活性の抑制、RAS活性化抑制、内皮機能改善、炎症抑制、貧血改善、ケトン体増加などさまざまな効果ももたらされる。こうしたことからも、「SGLT2阻害薬を使用することで、心腎連関を標的とした治療ができるのではないか」と金﨑氏は述べた。

また、腎機能低下を伴う2型糖尿病患者・非糖尿病患者に対し、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジンの腎機能と心血管疾患への影響を検討した「DAPK-CKD study」では、プラセボ群と比較して、ダパグリフロジンを使った群ではeGFRの50%低下、末期腎不全、死亡(腎・心臓)のリスクが約40%軽減したことが分かっている。

GLP-1受容体作動薬/SGLT2阻害薬の選択

金﨑氏は、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を積極的に使用すべき患者として、以下の3つを挙げた。

・進行性臓器障害がある

・予後悪化可能性が高い

・ハイリスク

患者の状態が悪いなどの理由でGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の使用を諦める場合もあるが、それでも処方による利益を考え、本当に処方できないか検討していると金﨑氏は言う。

また、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を選択する際には、(1)腎機能障害抑制、(2)心不全、(3)動脈硬化性病変の主に3つの観点から、どちらを使用するか検討しているという。明確な使い分けはないが、腎機能障害抑制や心不全を考慮する場合にはSGLT2阻害薬、動脈硬化性病変を考慮する場合にはGLP-1受容体作動薬を使用することが多く、もちろん併用療法も多数行っている。

フォローの際には、患者の症状を十分に観察しながら薬剤を見直すことも大切だ。たとえば、SGLT2阻害薬によって尿量が増加し水分摂取できない可能性がある場合にはGLP-1受容体作動薬に変更する。また、GLP-1受容体作動薬によって深刻な食欲低下を認め、血行動態依存性機構を最重視したい場合にはSGLT2阻害薬に変更する。全ての薬には副作用が存在することを認識する必要がある。

そして最後に金﨑氏は、過剰なインスリン投与によって腎機能が悪化した患者を多く診てきた経験から、やはり無秩序な高インスリン血症を伴うような介入は避けるべきであると強調し、治療においてGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は非常に有用だと考えていると提言して本講演を締めくくった。

講演のまとめ

・糖尿病に関連する腎疾患を防ぐにはハイリスク糖尿病の予知が重要である

・GLP-1受容体作動薬によってeGFRが維持されるという研究結果がある(AWARD-7試験)

・SGLT2阻害薬によってeGFRの50%低下、末期腎不全、死亡(腎・心臓)のリスクが約40%軽減したという研究結果がある(DAPK-CKD study)

・以下のような患者には積極的にGLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬の使用を検討するのが望ましい

 ・進行性臓器障害がある

 ・予後悪化可能性が高い

 ・ハイリスク

・患者の状態を十分に観察し、GLP-1受容体作動薬/SGLT2阻害薬の選択をする

・腎臓を保護するために、糖尿病患者への無秩序な高インスリン血症を伴う介入は避ける

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