2022年02月03日掲載
医師・歯科医師限定

【学会レポート】CKDの病態を可視化するFunctional MRI――間質線維化や低酸素状態の評価が可能に(4100文字)

2022年02月03日掲載
医師・歯科医師限定

埼玉医科大学 医学部腎臓内科 教授

岡田 浩一先生

慢性腎臓病(以下:CKD)の病態評価には腎生検などが用いられるが、侵襲性が高いことから、実施が困難な場合が多々ある。また腎臓はCKDの進行過程で低酸素状態に陥ることが知られているが、現段階で臨床上の評価は難しい。そこでMRIを用いた新たな診断方法に関して研究が進んでいる。

埼玉医科大学 医学部腎臓内科 教授の岡田 浩一氏は、第43回日本高血圧学会総会(2021年10月15~17日)で行われた教育講演において、CKDで進行する病態を可視化するFunctional MRIについて解説した。

DW-MRIによる間質線維化の評価

CKDは糸球体硬化や間質線維化を伴いながら進行していく。そしてこれらの病態とeGFR低下には相関関係があることが古くから知られており、特に間質線維化とは強い相関がある。しかし、間質線維化の広がりを評価するためには侵襲性が高い腎生検を行う必要があり、繰り返し検査することが難しい。また、CKDが進行して萎縮腎になると腎生検自体が禁忌となる。そこで我々の教室では、井上 勉准教授を中心に非侵襲的なFunctional MRIを用いた間質線維化の評価について研究を進めてきた。

通常のMRIでは、腎臓の萎縮や皮質の菲薄化は確認できるが、線維化の広がり具合は確認できない。そこで有用なのが、Functional MRIの1つであるDW(diffusion-weighted)-MRIだ。これは組織内における水分子の運動を可視化できる撮像法で、運動が制約されている箇所は線維化が起こっていることを意味する。広がりを定量化した指標にはADC(apparent diffusion coefficients)値が用いられる。


岡田氏講演資料(提供:岡田氏)

すでに腎生検で間質線維化が確認されている患者に対してDW-MRIを撮像したところ、ADC値と間質線維化に相関があることが分かった。さらに、CKD患者を糖尿病の有無で比較したところ、両者共に間質線維化とADC値に相関を認めるという結果が得られた。

BOLD-MRIによる低酸素状態の評価

腎臓はほかの臓器と比べて、低酸素に陥りやすいことが知られている。この低酸素が間質線維化を惹起し、さらに低酸素を増悪させるという悪循環を形成しながらCKDが進展していく。腎臓の低酸素状態を評価するには、酸素分圧を測定する微小電極法やファイバー型の光センサー法があるが、腎生検と同じく侵襲的であるため臨床的な実用化は難しい。

そこで、低酸素状態の評価に有用となり得るのが、Functional MRIの1つであるBOLD(blood oxygenation level-dependent)-MRIだ。BOLD-MRIでは、組織内のオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの比率を可視化して、酸素分圧を画像化することができる。この撮像によって得られた低酸素の指標になる定量値がT2*(ティーツースター)値である。


岡田氏講演資料(提供:岡田氏)

T2*値を抽出する解析法にはROI法とTLCO法がある。ROI法はいくつかの測定ポイントを恣意的に設定し、それらで測定されたT2*の平均値を取る方法で(下図左)、TLCO法は皮質外層から髄質内層までの実質を12層に分割し、各層でT2*を測定して平均値を取る方法だ(下図右)。


出典:Vakilzadeh N,et al.Kidney Blood Pres Res 2015;40:542-554

岡田氏講演資料(提供:岡田氏)

我々は、CKD患者を対象に、BOLD-MRIから算出したT2*値とeGFRの関連性を検討した。すると、全体ではあまり相関が見られなかったが、糖尿病を伴わないCKD患者では、eGFRが低いほど低酸素状態にあるという関連が見られた。一方、糖尿病を伴うCKD患者では、eGFRが保たれているにもかかわらず、腎臓は低酸素状態にある患者が一定数いることが分かった。

そこで患者を5年間経過観察したところ、eGFRの低下率に有意に相関した因子としてタンパク尿とともに、T2*値がCKDの予後やeGFRの低下に直接関連することが明らかとなった。タンパク尿がCKDの進展に関わることは既知の事実であるが、本検討により、新たにCKDの進展が低酸素状態によって決定づけられることが判明したのだ。

糖尿病を伴うCKD

新たな疾患概念「糖尿病性腎臓病(DKD)」

古典的な糖尿病を伴うCKD、すなわち「糖尿病性腎症」では、アルブミン尿が出現してその後eGFRが低下するという経過を辿る。ところが、集学的治療の普及によってアルブミン尿の有病率が低下したにもかかわらず、アルブミン尿を伴わずにeGFRが低下する患者が増加している。

こうした非典型的な経過を辿る症例の増加は、日本に限らず欧米の先進国でも見られており、イギリスで行われた2型糖尿病患者を対象とした20年間の観察研究では、eGFRが低下した約半数はアルブミン尿を伴っていないことが報告されている。また、薬剤の有効性を検証した大規模臨床研究の患者内訳を見ると、エントリーされたeGFR60未満の糖尿病患者のうち、56%はアルブミン尿を伴わない患者だった。

こうした背景から、近年「糖尿病性腎臓病(DKD)」という疾患概念が提唱されている。これは古典的な糖尿病性腎症に、アルブミン尿を伴わずにeGFRが低下するという非典型的な経過を辿る患者を包括する概念だ。このアルブミン尿を伴わないDKDの進行には、低酸素が深く関わっていることが示唆される。

低酸素状態を改善すると考えられる「SGLT2阻害薬」

糖尿病を伴うCKDに有効な薬剤として、近年SGLT2阻害薬が注目されている。

SGLT2阻害薬は、近位尿細管でグルコースの再吸収を阻害し、尿中排泄を促進させることで血糖値の上昇を抑制する効果があるが、同時にグルコースの再吸収に伴う酸素消費を減少させ、結果的に腎臓の低酸素状態を防いで腎保護効果を呈すると考えられている。

実際、いくつかの大規模臨床試験(CREDENCE試験CANVAS試験DAPA-CKD試験など)で、糖尿病の有無にかかわらず、SGLT2阻害薬は腎保護効果をもたらすことが示されている。これは日本腎臓学会が構築してきたリアルワールドデータベース(J-CKD-DB)でも検証されており、タンパク尿の有無にかかわらず、DKD全般に対するSGLT2阻害薬の有効性が報告されている。

我々は、このSGLT2阻害薬の腎保護効果が、腎皮質の低酸素状態を改善させることによる薬理作用なのかどうかを、BOLD-MRIを用いて研究を進めている。また、近年承認されたHIF-PH阻害薬には、いまだ効果的な投与対象のスクリーニング法や薬効を判定する方法がないことからも、BOLD-MRIによる腎臓の低酸素状態の評価は、今後の腎疾患医療において非常に重要になるだろう。

そのほかのFunctional MRI――ASL-MRI、DT-MRI

そのほかにもいくつか興味深いFunctional MRIがある。1つは腎臓の血流を評価してCKDの進行度合いを検出できるASL(arterial spin labeling)-MRIだ。ASL-MRIはヘモグロビンの量を信号化して腎機能フェーズごとの差をとることで、ヘモグロビンの移動量、すなわち血流を可視化することができる。

2つ目が、DT(diffusion tensor)-MRIだ。これは、前述のDW-MRIと同様に、水分子のBrown運動を検出して画像化する技術である。DW-MRIがBrown運動の拡散振幅を捉えるのに対し、DT-MRIは拡散の異方性を捉えることができる。こうした腎実質の微細な構築の変化を検出することで、DW-MRIよりも早期にCKDを診断できる可能性があるのだ。

BOLD-MRIは独立した腎機能の予後予測因子マーカーになり得る

このように、近年さまざまなFunctional MRIが腎臓診療において応用可能となってきており、Kidney International誌でも、複数の撮像法を用いて腎臓を同時に評価することについて、複数の報告があがっている。そこで我々も、Functional MRIのデータと尿タンパク値から、以下のようなクラスター分類を行い、Functional MRIの有用性を検証した。

・タンパク尿で判断可能な腎機能予後不良群

・腎機能予後良好群

・Functional MRIのみで評価可能な腎機能予後不良群

そして、これらのグループのeGFRスロープの予測を、タンパク尿・BOLD-MRIのT2*値・タンパク尿+T2*値から推定すると、タンパク尿の少ない患者の場合には、タンパク尿による推定は困難で、BOLD-MRIのT2*値を用いた推定が非常に有力であることが分かった。さらに、タンパク尿とは別にT2*値が低い、すなわち低酸素状態にある場合は、より急峻に腎機能を失っていくことが示された。つまり、BOLD-MRIのT2*値はタンパク尿とは独立した、優秀な腎機能の予後予測因子マーカーとなる可能性があるのだ。

CKD/DKD診療のパラダイムシフト

将来的にFunctional MRIが臨床応用可能になると、腎血流量や低酸素状態、間質線維化、微細構築の変化などを把握することができる。これらを診察前に撮像し、従来の検査データに加えて診察することで、より詳細に治療効果が検討できる時代が来るかもしれない。Functional MRIが新たなCKD/DKD診療のツールとなるよう、これからも研究を進めていく。

講演のまとめ

・間質線維化を評価する「DW-MRI」、低酸素状態を評価する「BOLD-MRI」、腎血流量を評価する「ASL-MRI」、微細な構築の変化を評価する「DT-MRI」など、いくつかのFunctional MRIが登場してきている

・BOLD-MRIはSGLT2阻害薬やHIF-PH阻害薬の有効性の判定に有用な可能性がある

・複数のFunctional MRIを同時に用いることで、より詳細に病態や治療効果の判定ができるようになる

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