2021年11月12日掲載
医師・歯科医師限定

【第120回皮膚科学会レポート】脊髄を切り口とした慢性掻痒症の新しいメカニズム(5600字)

2021年11月12日掲載
医師・歯科医師限定

九州大学 大学院薬学研究院 薬理学分野 助教

白鳥 美穂先生

慢性掻痒症とは、かゆみが長期間続くことに加え、かゆみ敏感状態など通常とは異なる異常なかゆみがみられる状態であるが、今までその詳しい分子メカニズムは明らかにされていなかった。

第120回日本皮膚科学会総会(2021年6月10~13日)にて行われた講演の中で、九州大学 大学院薬学研究院 薬理学分野(津田 誠教授)の白鳥 美穂氏は「脊髄を切り口とすることで、これまで分かっていなかった慢性掻痒症の新しいメカニズムが明らかになりつつある」と述べ、その研究結果を解説した。

かゆみの伝達経路

はじめにかゆみの伝達経路について解説した。ヒスタミンなどのかゆみの原因物質が皮膚に存在すると、末梢神経の一種である一次求心性神経のC線維の自由終末に存在する受容体が刺激を受け取り神経が興奮する。この興奮が脊髄後角の神経に伝えられ、複雑な神経回路を経て最終的に脳へと伝えられることで、我々はかゆみを認識することができる。

最近の研究では脊髄後角において、単にかゆみの興奮を伝達する神経だけでなく、興奮伝達神経に対して抑制をかけるような神経の存在も明らかになっていると白鳥氏は語る。

また2007年のNature誌では、かゆみに特異的な受容体であるGRPR(レセプター)の発見が報告され、脊髄後角におけるかゆみ研究が進むきっかけになった。さらに、このGRPRを発現する神経そのものが、かゆみに特異的な神経であることも分かっている。現在では脊髄レベルだけではなく、一次求心性神経レベルでもかゆみに特異的な神経が存在していることも分かっているという。これらの研究の進歩により、かゆみは痛みとは異なる神経回路で伝達される、まったく独立した感覚であることが認識されるようになっているのだ。

脊髄におけるかゆみ伝達経路

脊髄のかゆみ伝達経路は「機械刺激によるかゆみ」と「化学物質によるかゆみ」に大別される。このうち化学物質によるかゆみは、ヒスタミン、IL-31やTSLPなどのサイトカイン、セロトニン、エンドセリン、トリプターゼ、胆汁酸、ビリルビンなどによって引き起こされる。これらの物質は蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、胆汁うっ滞などの疾患に関わることから、かゆみの症状の大部分が化学物質によるかゆみであることが分かる。

先述したGRPR陽性神経は、これらの化学物質によるかゆみを担う重要な神経として研究が行われている。これまで神経回路をはじめとする研究は主にかゆみの伝達を基準にして行われてきたが、かゆみの慢性化に関しては不明な点が多かった。

かゆみが慢性化すると、長期的な掻破行動によって皮膚に炎症が起こり、さらに強いかゆみを引き起こすという悪循環が生じる。また、少しの刺激でも非常に強いかゆみとして認知してしまう、かゆみ過敏状態になることもある。こうした慢性掻痒時に生じる異常なかゆみのメカニズムについては解明されていないことが多々あったことから、白鳥氏の所属する研究チームはそれについて明らかにすべく研究を行ってきた。


 白鳥氏提供

アストロサイトの活性化と慢性掻痒の関係

慢性掻痒時のかゆみメカニズムの研究において、白鳥氏らは中枢神経系の一種である脊髄に着目した。中枢神経系を構成する細胞には、神経細胞と非神経細胞が存在し、非神経細胞を総称したものをグリア細胞という。さらにグリア細胞は「オリゴデンドロサイト」「ミクログリア」「アストロサイト」の大きく3つに分類され、アストロサイトはグリア細胞の中でもっとも数が多く、さまざまな神経疾患に関わることが分かっている。白鳥氏らは今回の研究で特にアストロサイトに注目して研究を行ってきた。

自然発症アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた検討

慢性掻痒を研究するにあたり、白鳥氏らはいくつかのタイプのモデルマウスを用いて研究を行った。はじめに「NC/Ngaマウス」による研究について報告した。

NC/Ngaマウスは、通常の環境下での飼育では皮膚炎やかゆみを自然発症するが、特定病原微生物のいないSPF環境下では無症状である。アトピー性皮膚炎やかゆみの薬物効果など、多くの点で実際の患者と類似しているのが特徴である。

SPF環境下の無症状のマウスと、通常環境下でアトピー性皮膚炎を発症したマウスをそれぞれ飼育したところ、SPF環境下のマウスでは特に変化はみられなかったが、アトピー性皮膚炎のマウスでは生後1か月ほどからかゆみ症状がみられ、その後皮膚炎が起こりはじめた。こうしたことから、皮膚炎はかゆみ行動によって引き起こされていることが分かる。

さらにNC/Ngaマウスを用いて脊髄後角の観察を行ったところ、アストロサイトのマーカーである「GFAP(グリア線維性酸性タンパク質)」が アトピー性皮膚炎を発症しているマウスで発現増加を認め、アストロサイトが活性化していることが分かった。


写真上段、左がSPF環境下で飼育されたマウス、右がアトピー性皮膚炎を発症しているマウス/白鳥氏提供

なお過去の研究報告においては、いくつかの神経疾患でミクログリアが活性化することも知られていたが、アトピー性皮膚炎モデルマウスではアストロサイトほどの顕著な活性化状態は認められなかった。

接触皮膚炎モデルマウスを用いた検討

白鳥氏らは接触皮膚炎のモデルマウスについても同様に検討を行った。接触皮膚炎のモデルマウスは、ジフェニルシクロプロペノンを上背部に複数回塗布することで接触皮膚炎を発症させており、塗布から2週間ほどで慢性化状態に至る。

検討の結果、慢性化した状況下においてNC/Ngaマウスと同様にアストロサイトの活性化が認められることが分かった。この結果から「アストロサイトの活性化は慢性掻痒に共通して起こる現象なのではないか」と白鳥氏らは見解を示した。

アストロサイトSTAT3活性化とかゆみ過敏

それでは、アストロサイトの活性化に関与する具体的な因子は何なのか。白鳥氏らは神経疾患などでアストロサイト活性化と深く関わりのある転写因子である「STAT3(signal transducer and activator of transcription 3:シグナル伝達兼転写活性化因子3)」に注目した。

免疫染色法を用いてSTAT3の活性化を確認したところ、アトピー性皮膚炎モデルマウスの脊髄後角のアストロサイトにおけるSTAT3の強い発現を認めた。さらに核内にも局在していたことから、アトピー性皮膚炎モデルマウスのアストロサイトにおけるSTAT3が活性化状態にあると考えられた。またSTAT3の活性化を抑制する薬剤を投与したところ、アストロサイトの活性化と慢性掻痒の症状が有意に抑制されることも分かった。

次に脊髄のかゆみ特異的分子である「GRP(gastrin releasing peptide:ガストリン放出ペプチド)」を、無症状とアトピー性皮膚炎の各モデルマウスの脊髄に同濃度投与してかゆみ評価した。

すると、アトピー性皮膚炎のモデルマウスでは無症状のモデルマウスと比較し、約2倍以上のかゆみ行動の増加を示した。さらに、かゆみ過敏状態はSTAT3を阻害する薬剤によって正常レベルまで抑制されることも分かった。これらのことから「アストロサイトの STAT3の活性化が脊髄レベルでのかゆみ過敏を誘発することで、慢性掻痒の悪化に関与している可能性が示唆された」と白鳥氏は述べた。

アストロサイトSTAT3依存的因子LCN2がGRP-Rシグナルを増強

さらに検討を重ねた結果、STAT3の活性化によってリポカリン2(LCN2)と呼ばれる因子の発現が増加していることも分かった。そしてこのLCN2がGRP依存的な脊髄かゆみシグナルを増強することで、慢性掻痒の悪化に関わることが示唆された。さらに、かゆみによる引っ掻き行動による皮膚炎の悪化が一次求心性神経を通して伝わることで、アストロサイトの活性化をもたらすことも明らかとなっている。

これらの研究成果によって、慢性掻痒時には皮膚だけでなく脊髄も大きく変化し、それが慢性掻痒のかゆみメカニズムにおいて重要な役割を果たすことが世界で初めて示唆されたのだ。


白鳥氏提供

GRPR依存的なかゆみ受容体の研究――P2X3受容体

脊髄を切り口にして研究を進めることで慢性掻痒の新たなメカニズムが明らかになるのではないかと考え、白鳥氏らはさらなる研究を行った。まずは、STAT3によって増強されるかゆみシグナルにおいて、GRPRシグナルを介する何らかのかゆみ物質やその受容体が存在するだろうという考えのもと、その解明に向けた研究を行った。そこで白鳥氏らが着目したのがP2X3受容体だ。

P2X3受容体はイオンチャネル型ATP受容体であり、一次求心性神経に極めて選択的に高発現していることが知られている。そのため、古くから感覚情報の発生および伝達に関与していることが示唆されていたが、かゆみにおける役割は解明されていなかった。

そこで白鳥氏らは、P2X3受容体のかゆみへの関与について明らかにするため、P2X3受容体の選択的アゴニストと内因性アゴニストをマウスに投与し、その後のかゆみ行動を評価した。すると、両アゴニストによってかゆみ行動が有意に増加した。さらに、増加したかゆみ行動はP2X3受容体の選択的なアンタゴニストによって抑制されることが明らかとなり、P2X3受容体がかゆみに関わることが示唆された。

そして、P2X3受容体が関わるかゆみがGRPRシグナルを介しているのかを確かめるために、GRPR欠損マウスを用いて検討を行った。その結果、両アゴニストによって増加したかゆみ行動が欠損マウスでは大きく抑制されることが分かり、P2X3受容体に依存的なかゆみはGRPRシグナルを介していると考えられた。

最後にP2X3受容体が慢性掻痒に関わるかどうかを明らかにするため、NC/Ngaマウスを用いて検討を行った。

まず一次求心性神経におけるP2X3受容体の発現レベルを検討したところ、慢性掻痒時にP2X3受容体の発現増加を認めた。また選択的アンタゴニストを皮内に投与すると、慢性的なかゆみが抑制されることが明らかとなり、P2X3受容体は慢性掻痒にも関わることが判明した。

以上の結果から、慢性掻痒時においてGRPRシグナルを担うかゆみ物質とその受容体として、ATPと一次求心性神経に選択的に発現するP2X3受容体の存在が明らかとなった。


白鳥氏提供

アストロサイトSTAT3活性化メカニズム――IL-6

一次求心性神経由来のIL-6がSTAT3を活性化させる

続いて白鳥氏は、アストロサイトにおけるSTAT3の活性化に至るまでのメカニズムに関する研究結果について報告した。本研究で着目したのがSTAT3活性化因子であるIL−6だ。

慢性掻痒モデルマウスの一次求心性神経におけるIL-6の発現をみてみると、mRNAとタンパクレベルともにIL-6の増加を認めた。IL-6中和抗体を脊髄腔内に投与することで、慢性的なかゆみが抑制されることも明らかとなった。

さらに、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、一次求心性神経選択的にIL-6の発現を抑制できるマウスを作成して検討を行った。その結果、慢性的なかゆみ、皮膚炎、リポカリン2の発現が抑制されることが判明した。

IL-6によるSTAT3の持続的活性化に関する検証

一般的にSTAT3の活性化は一過性であると知られていることから、アストロサイトが長期的に活性化する理由について疑問が残る。そこで白鳥氏らは、アストロサイトにおけるSTAT3の長期的な活性化は従来のメカニズムとは異なるメカニズムによるものではないかという仮説のもと、検証を行った。

まず、初代培養アストロサイトを用いてIL-6を処置して経時変化をみていくと、一過性の強い活性化が観察されただけでなく、24時間以上にわたり持続的な活性化が続くことを確認した。

さらにかゆみに重要なSTAT3依存的因子であるリポカリン2の発現増加も、STAT3の持続的な活性化の経時変化とよく似た結果を示した。

これらのことから持続的な活性化に関与する分子を突き詰めるべく、白鳥氏らはカルシウムシグナルに注目した。慢性掻痒と同じくSTAT3の活性化が起こるアルツハイマーや脳外傷といった神経疾患では、カルシウムシグナルが亢進する報告があるためだ。

IP3R1依存的なSTAT3活性化は慢性掻痒に関与する

まず、アストロサイトのカルシウムシグナルで重要な役割を果たすIP3受容体の3つのサブタイプに注目した。すると、IP3R1・IP3R2・IP3R3の3つのサブタイプのうちIP3R1とIP3R2の2種類がアストロサイトに高発現していることを確認し、非選択的な阻害薬によってSTAT3の活性化が抑制されることが分かった。続いて選択的siRNAを用いて検討を行ったところ、IP3R1でのみSTAT3の活性化が抑制されることが分かり、サブタイプに特異性があることが明らかとなった。

こうした結果を踏まえて、IP3R1をアストロサイトで選択的に抑制した場合、どのようなことが起こるのかを検証した。検証にあたり、アデノ随伴ウイルスベクターを脊髄後角に微量注入することで、脊髄後角のアストロサイトでのみIP3R1の発現を抑制できるマウスを作成した。このマウスを用いて検証したところ、慢性的なかゆみ、皮膚炎、リポカイン2の発現について、いずれも十分に抑制されることが分かり、IP3R1依存的なSTAT3の活性化は、慢性掻痒に関わることが明らかとなった。

IP3R1/TRPC依存的なSTAT3活性化は慢性掻痒に関与する

次にカルシウムを可視化するイメージング技術を用いて、IL-6によるアスロトサイトのカルシウム濃度変化を検討したところ、微弱ではあるものの持続的なカルシウム濃度の増加が起こることが分かった。このカルシウム濃度の増加は、IP3受容体の阻害薬とTRPCの阻害薬(筋肉などではIP3受容体とTRPCがカップリングして、非常に長期的なカルシウム動態を担うことが近年の研究で報告されている)、どちらの阻害薬によっても抑制されることが分かった。

最後にTRCP阻害薬も髄腔内に投与したところ、慢性的なかゆみとリポカリン2の発現が抑制されることが判明した。

以上の検討から、慢性掻痒時において一次求心性神経に発現が増加したIL-6が、アストロサイトのIP3R1/TRPC依存的な持続的なカルシウムシグナルを介して、長期的にSTAT3の活性化を誘導することで一連の現象をもたらしていることが明らかとなった。

脊髄を切り口とした白鳥氏らの一連の研究によって、これまで分からなかった新しいメカニズムが分かりつつある。「これからも脊髄を切り口として、皮膚や一次求神経、末梢などのつながりなど組織横断的に研究することでさらなる新しいメカニズムを解明していきたい」と述べ、本講演を締めくくった。


白鳥氏提供

講演のまとめ

・慢性掻痒にはグリア細胞のアストロサイトが関与している

・アトピー性皮膚炎の引っかき行動による皮膚炎の悪化はアストロサイトのSTAT3活性化を誘発し、それに伴ってリポカリン2の発現が増加する

・リポカリン2がGRP依存的な脊髄かゆみシグナルを増強することで慢性掻痒の悪化に関わる

・慢性掻痒時におけるGRPRシグナルを担うかゆみ物質とその受容体として、ATPと一次求心性神経に選択的に発現するP2X3受容体の存在が明らかとなった

・一次求心性神経に発現が増加したIL-6が、アストロサイトのIP3R1/TRPC依存的な持続的なカルシウムシグナルを介して長期的にSTAT3の活性化を誘導することで、慢性掻痒の悪循環を引き起こしている

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