2023年03月30日掲載
医師・歯科医師限定

副腎クリーゼ

2023年03月30日掲載
医師・歯科医師限定

東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 教授

南学正臣先生

東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教

間中勝則先生

ポイント

  • 副腎クリーゼ(急性副腎不全)の主要な病態はショックを伴う循環不全である。低血糖や脱水、意識障害、ショックなどさまざまな症状が同時に進行し、重篤な病態に陥る恐れがある
  • 多くは慢性副腎不全での急性増悪である。ステロイド薬の不適切な中止や感染などのストレスはリスク因子となり得る
  • 治療はグルココルチコイドの補充であり、副腎クリーゼを疑った場合には検体採取後、速やかに糖質コルチコイド補充を行う

概要

病態

副腎クリーゼ(急性副腎不全)は、副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド)の急激な不足により全身に重篤な症状をきたす病態である。多くはもともと存在する副腎不全に加え、感染や外傷などのストレスにより、副腎皮質ホルモンの需要を適切に代償できなかった場合に起きる。

主要な症状はショックによる循環不全であり、意識障害・低血糖・発熱・電解質異常(低ナトリウム血症・高カリウム血症)などをきたす。適切な治療を行わないと急速に死に至る。治療はグルココルチコイドの投与、補液、合併症、誘因への対応である。

疫学

慢性副腎不全症患者が副腎クリーゼを発症する頻度は、患者100人当たり6.3件/年とする報告がある*。また別の疫学調査では、アジソン病患者の約8%において治療が必要となる副腎クリーゼを発症するとされた**

* Stefanie Hahner et al. Epidemiology of adrenal crisis in chronic adrenal insufficiency: the need for new prevention strategies. Eur J Endocrino. 2010; 162(3)
** Katherine White, Wiebke Arlt. Adrenal crisis in treated Addison's disease: a predictable but under-managed event. Eur J Endocrino. 2010; 162(1)

リスク因子

慢性副腎不全患者において、ステロイド需要を増加させる状況(外傷や感染など)は副腎クリーゼのリスク要因といえる。また、副腎皮質ステロイド薬の急な内服中止、両側副腎出血、下垂体卒中なども要因となる。

診断方法

副腎クリーゼの主要な症状はショックによる循環不全であり、急激に低血糖、発熱、電解質異常(低ナトリウム血症・高カリウム血症)、意識障害などが生じる。

副腎クリーゼの多くは慢性副腎不全が急性増悪して発症するため、アジソン病や副腎皮質機能低下症など原疾患の特定とともにそれらの徴候を見逃さないことが重要である。慢性副腎不全患者には痩せ型が多く、色素沈着を認める例も多い。また、低Na血症や高K血症、低血糖、低コレステロール血症なども慢性副腎不全を疑わせる所見である。

検査方法

問診

問診にて病歴や薬剤の内服歴を聴取する。特に糖質コルチコイドの内服・外用や、中断の有無は詳細に聴取すべきである。

血液検査

血球数や電解質、炎症反応のほか、確定診断には血中ACTH、コルチゾールを測定する。

通常、好酸球の増加や血清Na低下、低血糖などを認める。感染を伴う場合には、CRPや白血球数も上昇する。さらに、循環血液量の低下に伴い血清クレアチニンや尿素窒素の上昇を認めることもある。

確定診断のためには治療開始前の血中ACTHおよびコルチゾールを同時測定し、さらに迅速ACTH負荷試験を行う。負荷後30分・60分のコルチゾール値が18μg/dl未満の場合には原発性副腎皮質機能低下症、原発性副腎不全を疑う。副腎皮質機能低下症にショックを伴う循環不全がある場合、副腎クリーゼと診断できる。

画像検査

出血性壊死や腫瘍の有無などの他疾患鑑別のため、病態に応じて副腎CTや下垂体MRIなどの画像検査を考慮する。

治療方針

治療はグルココルチコイド補充療法が基本であり、副腎クリーゼを疑う場合は検体採取後速やかに治療を開始する。

薬物療法

成人では、ヒドロコルチゾン(HC)の静脈内投与が推奨されている。以下に成人と小児の治療例を挙げる。

成人の治療例

(1)生理食塩水を1,000ml/hにて投与
(2)HC100mgを静注後、5%ブドウ糖液中にHCを100~200mg混注し24時間点滴静注、またはHC25~50mgを6時間毎に静注する

小児の治療例

(1)5%グルコース含有生理食塩水を450ml/㎡/hまたは20ml/kg/hで点滴静注し、その後24時間かけ3,200ml/㎡または60ml/kgで持続
(2)(1)を開始後、HCを50~75mg/㎡で急速静注、ルート確保が困難な場合には、HCコハク酸エステルを筋肉内注射
(3)以降(2)と同量のHCを持続または4分割投与
(4)症状改善後は経口薬に変更

患者指導

既知の副腎皮質機能低下症は副腎クリーゼのリスクとなるため、副腎皮質機能低下症(原発性・中枢性・糖質コルチコイド長期内服)の患者全員に、副腎クリーゼ発症予防のため指導を行うことが重要である。要点は以下のとおりである。

  • 発熱やインフルエンザ罹患時、抜歯時など通常時よりコルチゾールを多く必要とする状況では、コートリルを通常時の1.5~3倍量にて内服する
  • ステロイドの内服は自己判断で中止しない
  • 緊急時に備え、病名や連絡先、必要な処置などを記したカードを作成し、常に持参する
参照文献
日本医事新報社 Web医事新報 「急性副腎皮質機能不全」
第1部 副腎不全症概要. 日本内分泌学会雑誌. 2015; 91( Suppl.September)
柳瀬 敏彦. I.急性副腎不全(副腎クリーゼ). 日本内科学会雑誌. 2016;105(4)
Stefanie Hahner et al. Epidemiology of adrenal crisis in chronic adrenal insufficiency: the need for new prevention strategies. Eur J Endocrino. 2010; 162(3)
Katherine White, Wiebke Arlt. Adrenal crisis in treated Addison's disease: a predictable but under-managed event. Eur J Endocrino. 2010; 162(1)

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