2021年11月11日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】心不全増加の主要因は高齢化、ほかには先天性心疾患、がんの治療の進歩――“治す”には根本的原因の究明が不可欠(1100字)

2021年11月11日掲載
医師・歯科医師限定

東京大学大学院医学系研究科 内科学専攻器官病態内科学講座 循環器内科学教授

小室 一成先生

循環器疾患にはさまざまな病気がある。中でも患者が急増し1番問題になっているのが心不全だ。増加の背景には多くの要因があるがここでは2つの要因について話をしたい。

まず患者急増のもっとも重要な要因は高齢化である。現在、心不全患者は120万人おり、高齢化に伴い2035年まで増え続けると推計されている。もう1つの要因は、心不全があらゆる循環器疾患の終末像であるということである。現在、心臓弁膜症が200万人▽虚血性心疾患が80万人▽心房細動が80万人▽高血圧に至っては4300万人――の患者がいる。そのどれもが、最終的には心不全になりうる。

また一般的にはあまり知られていないが心不全になりうる疾患として重要なのが先天性心疾患だ。約100人に1人が心臓に何らかの問題をもって生まれる。疾患に応じたさまざまな新しい術式が考案されて手術がうまくいくようになり、術後管理もよくなったことで9割以上が成人を迎えることができるようになった。そのような「成人先天性心疾患患者」は現在約45万人いて、毎年9000人ずつ増えている。心室中隔欠損のような小さい異常ならば完全に治すことも可能であるが、たとえば単心室症や大血管転位、左心低形成症候群など大きい異常があると、完全に治すことができない。そのような患者は、最終的に心不全になる。

さらにもう1つ最近注目されているのががんである。がん治療が長足の進歩を遂げたことにより、がんになっても長生きが可能となり、治る人も増えた。しかし、毎年新しく登場するものを含めて、ほとんどの抗がん剤には心毒性がある。その結果、がんの治療中、時には治療後10年以上して心不全を起こすことが増えている。このように、いろいろな病気の治療法が進んでその病気で亡くなることは減ったが、逆説的に心不全の増加につながっている。

心不全が発症するメカニズムについてはいまだ不明であるが、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、βブロッカー、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)などの心保護薬が生命予後を2~3割も延ばすといったように、かつてはどんな薬剤よりも治療成績がよかった。その後、がんは原因が明らかになり、原因に基づいた治療をすることによって治る時代になった。一方、心不全は残念ながらまだ治すことができるようになっていないところに、急速な高齢化により患者数が増えて大きな問題になっている。循環器疾患、特に心不全を治すには、発症機序を解明し、病態に基づいた治療を行うことを目指すべきだ。病態解明から、分子標的薬やデバイスの開発へ、基礎研究から臨床研究、先進医療への流れをつくることが非常に重要だ。

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