2022年12月05日掲載
医師・歯科医師限定

【第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会レポート】時間経過に伴い複数の病態を合併するCTD-PH――多分野集学的検討の重要性を事例とともに解説(4200字)

2022年12月05日掲載
医師・歯科医師限定

香川大学医学部・医学系研究科 血液・免疫・呼吸器内科学 助教

中島 崇作先生

結合組織病(膠原病)に合併する肺高血圧症(connective tissue disease-pulmonary hypertension:CTD-PH)では、時間が経つにつれて病態構築因子となり得る合併症が出現する。そのため、病態構築因子ごとに専門診療科と連携してPH診療を行う必要がある。今回、中島 崇作氏(香川大学医学部・医学系研究科 血液・免疫・呼吸器内科学 助教)は、第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会(2022年7月2~3日)において、領域横断的に複数の診療科が関わったCTD-PH症例を提示し、多分野集学的検討(multidisciplinary discussion:MDD)の重要性を示した。さらに同氏らが取り組んでいるCTD-PHの病態鑑別に有用なバイオマーカーに関する研究成果について紹介した。

CTD-PHとMDD

CTD-PH は多彩な臓器合併症を有し、その臓器病変がさまざまなPH構築因子に影響を及ぼす。複数の因子が病態形成に関与するため、免疫抑制療法以外の治療戦略を検討する必要があり、それぞれの構築因子ごとに専門診療科と連携してPH診療を行う必要がある。また、全身性強皮症では罹病期間が長くなるにつれて、間質性肺病変や肺動脈病変、心病変の頻度が増加することが示されている。合併症が増えるにつれ、より多くの診療科との関わりが必要になるが、どのような場合・時期に各診療科へコンサルトすべきか明確な基準がない。

中島氏講演資料(提供:中島氏)

以下、時間経過とともに複数の病態が出現して多臓器合併症を有し、領域横断的に複数の診療科が関わったCTD-PHの経験症例を提示する。

症例 1)63歳女性

びまん性皮膚硬化型全身性強皮症、シェーグレン症候群と診断された63歳女性。初診時は、心臓超音波検査で心肥大を認めるものの右心負荷所見はなく、呼吸機能検査では努力性肺活量(Forced Vital Capacity:FVC)と一酸化炭素肺拡散能(diffusing capacity of the lung for carbon monoxide:DLCO)の低下を認めた。また胸部CTでは、両肺の背側に小葉間隔壁の肥厚とすりガラス陰影を認めた。CTDに活動性の間質性肺病変を合併していたため、呼吸器内科とコラボレートして診療を行った。

ステロイドとシクロスポリンの併用療法で治療を開始。経時的に、すりガラス陰影の明らかな変化を認めずFVCは軽度改善したものの、DLCOは低下していった。初診から5年後、労作時呼吸困難が出現。胸水を認め、FVCが低下してDLCOは測定不能となった。心臓超音波検査では全周性の壁肥厚に加え、前壁中隔領域の壁運動低下(左室駆出率:40%)と心嚢液貯留を認めた。さらに心臓カテーテル検査では、肺動脈楔入圧(27 mmHg)と肺動脈圧(平均血圧:49 mmHg)の上昇、心係数の低下(1.85 L/min/m2)を認め、フォレスター分類のIV群相当であった。また心筋生検では、心筋肥大と筋線維間の線維化を認めたが、肉芽腫やアミロイドの沈着はみられなかった。そのため、第2群(左心性心疾患に伴うPH)主体のPHを合併したと考え、循環器内科ともコラボレートして診療を継続した。

PH合併を認めた後は、ドブタミンと利尿薬を開始してリオシグアトを導入し、その後にマシテンタンを併用した。ところが経過中、心肺停止状態(心室頻拍)となり蘇生処置を要した。その後、複数のカテコラミン投与、大動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping:IABP)、一酸化窒素吸入療法などで病状安定して小康状態となったが、PHの合併診断から18か月後に、再び致死性不整脈を呈して死亡した。

本症例の病理解剖を行った結果、間質性肺病変の活動性は軽度に留まっている一方、著明な心筋線維化、肺動脈病変および肺静脈病変が認められ、第1' 群のPH(肺静脈病変に伴うPH)の合併と診断。さらに、これらの心筋病変と肺静脈病変を検出できる画像所見について放射線科とレトロスペクティブに協議した結果、CT検査で心筋筋層内に認められた低吸収域が心筋の線維化・脂肪化を反映すること、縦隔リンパ節腫大の緩徐進行が肺静脈病変と関連し得ることが挙げられた。放射線科と早期にコラボレートすることで、これらの所見に基づき心筋病変や肺静脈病変を早期発見できた可能性が省察された。

中島氏講演資料(提供:中島氏)

以上より、本症例は強皮症、シェーグレン症候群に、間質性肺病変、シェーグレン症候群に伴う心筋病変による2群主体のPH、肺静脈病変を合併しており、呼吸器内科と循環器内科だけでなく、病理診断科やPHに精通した放射線科のエキスパートとのコラボレーションが必要であった。

症例 2)57歳女性

15年前に混合性結合組織病、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)と診断され、シェーグレン症候群、原発性胆汁性肝硬変(primary biliary chlangitis:PBC)、橋本病、尖圭コンジローマを合併した57歳女性。

呼吸機能検査で肺活量は正常である一方、DLCOの低下を認めた。また、心臓超音波検査で左室収縮能は保たれていたが(左室駆出率:80%)、右房-右室圧較差の上昇(46 mmHg)を認めた。胸腹部CTでは、肺野に活動性肺病変はなく、大血管に血栓像もみられなかったが、肝臓は著明に萎縮して表面不整であった。また、肺換気血流シンチグラフィではミスマッチを認めなかった。

右心カテーテル検査で52歳時に肺動脈圧上昇(平均血圧:28 mmHg)を指摘され、タダラフィルにマシテンタンを追加されていたが、54歳時にも依然として肺動脈上昇を認めた(平均血圧:25mmHg)。混合性結合組織病によるPAHが主体で、シェーグレン症候群、PBCによる肝硬変を合併しており、循環器内科とコラボレートして診療を行った。 

免疫抑制療法(ステロイド、アザチオプリン)と肺血管拡張薬(タダラフィル、マシテンタン)で治療を開始したが、経過中に薬剤性の血小板減少を合併したためアザチオプリンとマシテンタンを中止。その後、血小板減少は改善したものの、呼吸困難およびNT-proBNP上昇を認めたため、セレキシパグを追加してPHの治療強化を行った。さらにミコフェノール酸モフェチルを追加し、免疫抑制療法も強化したが、その後もNT-proBNPおよび心臓超音波検査の右房-右室圧較差は軽度高値で持続していた。

中島氏講演資料(提供:中島氏)

本症例はPBCを合併しており、初診時に腹部CTで指摘された肝臓の萎縮像は経時的に増悪し、門脈拡張と食道静脈瘤の出現も認められた。さらに、肝臓線維化の予測スコアであるFib-4 indexを評価したところ、初診時から高値で経時的に増加する傾向がみられた。そのため本症例のPAHには、門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症、いわゆる門脈肺高血圧(portopulmonary hyper tension:PoPH)が影響していることが予測された。

中島氏講演資料(提供:中島氏)

以上より、本症例は混合性結合組織病によるPAHに、シェーグレン症候群、PBCによる肝硬変を合併し、経過中にPoPHの影響が加わったことが予測された。循環器内科に加えてPHに精通した肝臓内科のエキスパートとのコラボレーションが必要と考えられた症例であった。

CTD-PHの病態鑑別を行うための試み

今回提示した症例のように、CTD-PHにはさまざまな病変が合併するため、それぞれのエキスパートとコラボレートする時期について、明確な基準が求められる。さらには、膠原病全体、肺動脈病変や肺静脈病変、肺病変、肝病変の関与を検出できるバイオマーカーも必要だ。そこで我々は、PH病態構築因子やCTDとサイトカインの関連を明らかにし、それぞれの構築因子を診断するためのバイオマーカーについて、探索的研究を行っている。

具体的には、PHの精査目的で心臓カテーテル検査を行う際に、前・後毛細血管から採血してサイトカイン・バイオマーカーを測定し、そのプロファイルと病態の関連について検討した。対象となった患者は56例(男性9例、女性47例)で、平均年齢は62.8±15.5歳、CTDおよびPHの罹病期間はそれぞれ9.6±9.1年、2.8±4.3年であった。その内訳は、CTD-PHが23例、non CTD-PHが23例、PHを認めなかった患者は10例だった。

解析の結果、全身性強皮症患者において、PH合併群は非合併群よりもIL6とTIMP-1が有意に高値であった。またCTD-PHとnon CTD-PHとを臨床分類ごとに比較した結果、CTD-PHの1群は、特発性肺動脈性肺高血圧症(non CTD-PHの1群)よりも、IL-12とTIMP-1が有意に高値であった。以上の結果より、IL-6、IL-12などの炎症性サイトカインやTIMP-1は、CTDにおけるPH発症予測やCTD-PHの病態鑑別に有用なバイオマーカーとなることが期待される。

講演のまとめ

  • CTD-PHでは、病態構築因子となり得る合併症が時間経過とともに出現する
  • CTD-PHの診療経過中、状態に変化を認めた際は、それぞれの専門領域でPH診療に精通したエキスパートとコラボレートし、専門領域横断的な評価を行う必要がある
  • 炎症性サイトカインやTIMP-1は、CTD-PHの病態鑑別に有用な可能性がある
  • 肺静脈病変やPoPHを鑑別するためのマーカーについては、さらなる検討が必要である

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