2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】持続グルコースモニタリングで糖尿病患者のQOL向上――非侵襲デバイス実用化にはさらなるブレイクスルー必要(1250字)

2022年07月29日掲載
医師・歯科医師限定

国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長/日本糖尿病学会理事長

植木 浩二郎先生

主に1型糖尿病患者が使っているリアルタイムCGM(Continuous Glucose Monitoring)は、専用端末やスマートフォンにリアルタイムで血糖値の情報が飛んでくる。また、2022年4月から間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM:Intermittently Scanned Continuous Glucose Monitoring)が、「インスリン製剤の自己注射を1日1回以上行っているもの」にも保険適用されることになった。isCGMは自分でセンサーをスキャンしないと数値が取得できないが、保険の縛りが緩いので多くの人が使うようになった。

これらが登場したことにより、どんなものを食べると血糖が上がるのか、あるいはどのような運動をすると血糖がどう下がるのかということが分かってきたので、患者の血糖コントロール、QOLもかなり上がったのではないか。

普通のCGMのほうが正確性は高いといわれている一方、isCGMは特に低いほうの正確性が少し緩めで、頻繁に低血糖を心配しなければならないという事態が起きている。患者も使ううちに慣れてきて、数値的には低血糖でも「実際はこのぐらい」という認識で対応できるようになっている。これらはいずれも血液中のグルコースを直接測定しているわけではなく、皮下の組織間液を測ってそれを血糖値に換算するアルゴリズムに基づいて数値を出している。アルゴリズムは企業秘密なので、それがどうなっているのか我々には分からない。

CGMの正確性には、組織間液を正しく測れているのか、組織間液と実際の血糖値とのずれを補正する換算式が正しいのかという2つの問題がある。どちらも正しくないといけないが、精度管理はかなり難しい問題だ。

スマートウオッチ型、精度8割では不十分

非侵襲血糖値測定が可能なスマートウオッチの開発が進んでいるという話がある。理想的にはセンサーが皮膚を通して血中のグルコース濃度をモニターしてくれるものができればいいとは思う。

赤外線による果物の糖度分析は実用化されている。それを応用したデバイスについてもこれまで約30年にわたって研究が続けられているが、ことごとくうまくいっていない。なぜかというと、果物と違ってヒトの血液には脂質をはじめさまざまな物質がさまざまな濃度で混じっているので、グルコースだけを正確に測定することが困難だからだ。

8割程度の精度で測定できるというようなニュースは、私の経験からいうと20~30年前から時々流れるが、医療機器としてはそのレベルでは使い物にならない。たとえば血糖が下がりすぎたときに教えてくれないということがあってはならない。低血糖は下手をすると死につながる。誤差は10%でも大きいといわれ、非常に高い正確性が要求される。

医療機器の精度でデバイスが実用化するためにはまだ相当のブレイクスルーが必要であろう。ただ、薬物療法などをしていない人に対して1日の傾向をみるような、現在の歩数計と同じような“健康デバイス”として登場する可能性はあるかもしれないが、それにしても正確性を欠くものや、規格が統一されていないものが広まるのはあまりいいことだとは思わない。

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