2022年01月07日掲載
医師・歯科医師限定

【インタビュー】小型非小細胞肺がん手術 優越性試験でも区域切除が肺葉切除を上回る――2022年4月The Lancetに掲載されたJCOG0802研究とその経緯(1400字)

2022年01月07日掲載
医師・歯科医師限定

広島大学病院 呼吸器外科 科長/教授

岡田 守人先生

2022年4月22日、現在の肺がん外科領域の標準術式を大きく変えうる研究結果が「The Lancet」電子版に掲載された。その研究とは、肺野末梢小型非小細胞肺がんに対する縮小切除(区域切除)が、現在の国際的標準治療である肺葉切除に比べ、全生存期間において非劣性であることをランダム化比較試験(RCT)により検証しようとしたものである(登録患者数約1,100人)。

これまでは、2cm以下の小型肺がんに対する標準術式は「肺葉切除」、すなわち5つに分かれる肺の葉の1つを全て切除するもので、それが国際的標準治療であった。しかし世界的に検診や診断機器の精度が向上し続けており、たとえばCT検査やPET検査を行うことで従来は発見できなかったような非常に小さな肺がんが見つかるようになった。そしてその件数は爆発的に増加している。実際、発見される肺がん全体の3分の1から半分近くは2cm以下の小型肺がんである。このような流れのなかで、これまでどおりに肺葉を丸々切除する術式が果たして適切であるのか疑問視されるようになったのだ。

なぜ今まで標準術式が変わらなかったのか。その背景についても触れておこう。現在行われている標準治療の根拠となっているのが、1995年Lung Cancer Study Groupによって発表された論文である。この論文では、5年生存率において肺葉切除群は肺区域切除または肺部分切除群より良好であり、かつ局所再発率は肺区域切除または肺部分切除群において肺葉切除群よりも有意に高いという結果が示された。しかし、本研究の症例集積は1982~1988年と古く、しかも当時はまだCT検査がない時代である。このような点を踏まえ、日本を中心に積極的に区域切除を行う施設が増加し、関連する論文も発表されるようになった。そしてJCOG0802研究の開始・実施、さらに今回の結果の発表に至ったのである。

本研究は、2008年より日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG)肺がん外科グループ、および西日本がん研究機構(West Japan Oncology Group:WJOG)呼吸器グループ(外科)が主導した。

当初この研究は、有効性が一定以上劣らないことを示す非劣性試験で非劣性を示す、すなわち予後は変わらないが機能温存の面で勝るとの結果を想定しデザインされていた。ところが結果を見てみると、驚くべきことに非劣性試験のみならず優越性試験(対照群に比して有効性が優ることを示す試験)でも全生存期間で有意な差が出たのだ。さらに年代別や喫煙の有無などさまざまな予後因子を用いてサブグループ解析をしても、解析された全てで区域切除が優っているという結果が示された。これはまさに想定以上で“文句なし”の結果である。

JCOG0802研究の根底にあるのは「切除範囲を小さくすることで肺機能を温存すべし」という考え方だ。再生能を持つ肝臓などとは異なり、肺という臓器は基本的に再生しない。とすれば、がんが治ることを前提にするならできるだけ肺を残すべきであろう。言葉を選ばずに言えば「がんの完全切除を言い訳にして、手術で組織を切ってしまうのは簡単」なのだ。しかし肺実質切除量が多ければ肺活量は下がり、その結果QOLや予後に悪影響を及ぼす。追求するべきは、いかに肺機能を温存しながら必要十分に病変を取り除くかという点である。本研究は肺がん外科領域の基本ポリシーを大きく変容させ、肺機能温存を重視した手術を推し進める追い風となるだろう。

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