2022年01月04日掲載
医師・歯科医師限定

【症例紹介】薬剤性肺炎を伴ったクローン病

2022年01月04日掲載
医師・歯科医師限定

札幌医科大学医学部 消化器内科学講座/総合診療医学講座病院助教

風間 友江先生

症例

現病歴

クローン病の40歳代男性。

5ASA製剤3,000mg、アダリムマブ80mg、アザチオプリン50mgで治療中。

咳嗽と発熱を認め、肺炎が疑われたためCTを撮像したところ、両肺にびまん性のすりガラス影を認めた。精査加療目的に入院となった。腹部症状は落ち着いていた。

クローン病の治療歴は、27年前に小腸大腸型クローン病と診断されて以来、多発狭窄、内瘻、外瘻、肛門周囲膿瘍により計8回の手術歴があり、大腸全摘、残存小腸は150cm、人工肛門造設となっている。

短腸症候群に伴う低栄養に対し、CVポートを造設し在宅IVH療法施行中。5ASA製剤は発症後に投与されていたが、一時中断があり、6年前から再開。

抗TNF-α抗体による治療は15年前に導入、中断があり、6年前からインフリキシマブが再開となり、アザチオプリンを追加、コントロール不十分のため5年前にアダリムマブへスイッチし現在の用量となった。

検査結果

血液検査

白血球:5,200/μL

Hb:11.3g/dL

Alb:3.1g/dL

CRP:4.2 g/dL

感染症

SARSCov2抗原(-)

インフルエンザ迅速(-)

β-Dグルカン<6.0(pg/mL)

マイコプラズマ抗体(-)

クラミドフィラニューモニエ抗体(-)

クラミジア・シッタシ抗体(-)

クリプトコッカス抗原(-)

HSVIgG(-)

HSVIgM(-)

アスペルギルス抗原(-)

CMVアンチゲネミア(-)

気管支洗浄

抗酸菌培養陰性

真菌陰性

カンファレンスにて

レジデント:アザチオプリンやアダリムマブの投与もあり、まずは感染症の除外が必要と考えます。

上級医:そうですね。感染症の疑いがあるなら、一時的にアザチオプリンは中止してもよいでしょう。ほかに鑑別はありますか?

レジデント:両側性の肺炎であること、肺炎の割には高熱ではなく微熱が継続していることなどを踏まえ、薬剤性の可能性はあると考えます。しかし、最近始めた薬剤はサプリメントを含めてありません。

上級医:薬剤性を疑う場合、被疑薬として何が考えられますか?

レジデント:どれも数年前に始めた薬剤ですが、アダリムマブ、アザチオプリン、5ASA製剤があります。アザチオプリンはすでに中止していますが、咳嗽や発熱は変わりありません。レントゲン上も効果を認めていません。

上級医:数年投与した後に肺炎をきたす可能性がある薬剤はありますか?

レジデント:5ASA製剤で報告があります。一般的には内服開始後から数か月の間に発症することが多いようですが、中には7年経過後に肺炎を発症し、中止により改善した症例の報告はあります。

上級医:5ASA製剤は継続する必要はありますか? クローン病に対する5ASA製剤の維持効果についてはどのような見解が報告されているでしょうか。

レジデント:寛解導入で投与する効果はありますが、維持治療においては抗TNF-α抗体製剤が併用されている状況下ですし、維持効果は限定的と報告されています。そのため、中止しても治療的には問題ないと考えます。

上級医:そうですね。感染症が否定され、薬剤性が疑わしいのであれば、5ASA製剤を中止して経過を見てはどうでしょうか。改善に乏しい場合にはステロイドでの治療が必要になることもあります。

レジデント:薬剤を中止し、レントゲン上で改善が見られるかを確認します。

経過

5ASA製剤中止から2週間経過後

レジデント:咳嗽や発熱は改善しています。またレントゲン上も陰影が改善傾向です。5ASA製剤による薬剤性肺炎と考えます。

上級医:今回は経過から5ASA製剤による肺炎と考えてよさそうですね。

レジデント:5ASA製剤の有害事象は投与してすぐに気が付くことが多かったですが、こういった長期投与で明らかとなったものは初めて経験しました。

本症例のポイント

5ASA製剤は、クローン病だけでなく潰瘍性大腸炎でも投与する機会が多く、初期治療には欠かせない薬剤の1つである。しかしながら、時にこのような有害事象を起こす症例も見受けられる。有害事象として消化管症状をきたした場合には、現病の増悪と考え治療が強化されてしまうケースもある。比較的多く利用されている薬剤だからこそ、有害事象を疑った場合は早めに見極め、中止するなどの介入が必要となる。

今回の症例は数年以上経過してからの症状であったため原因の特定が困難ではあったが、感染症などの可能性を除外したうえで薬剤性の観点も忘れずに確認することが重要である。

参考・関連文献

1.Shindoh Y, Horaguchi R, Hayashi K, Suda Y, Iijima H, Shindoh C. [A case of lung injury induced by long-term administration of mesalazine]. Nihon Kokyuki Gakkai zasshi. 2011;49(11):861-6.

2.Akiyama N, Yokomura K, Nozue T, Abe T, Matsui T, Suda T. [THREE CASES OF DRUG-INDUCED PNEUMONIA CAUSED BY MESALAZINE]. Arerugi . 2015;64(10):1334-40.

3.Akobeng AK, Zhang D, Gordon M, MacDonald JK. Oral 5-aminosalicylic acid for maintenance of medically-induced remission in Crohn's disease. The Cochrane database of systematic reviews. 2016;9(9):Cd003715.

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