2022年02月21日掲載
医師・歯科医師限定

【第59回日本癌治療学会レポート】子宮頸がん予防におけるHPVワクチン有効性の実証――日本人若年女性対象の大規模疫学研究の結果、積極的勧奨中止の影響とは(4000文字)

2022年02月21日掲載
医師・歯科医師限定

新潟大学医学部産科婦人科学教室 准教授

関根 正幸先生

我が国では子宮頸がんの罹患率・死亡率はともに上昇傾向にあるが、HPVワクチンは現在に至っても接種率が激減した状態が続いている。第59回日本癌治療学会学術集会(2021年10月21日~23日)において、関根 正幸氏(新潟大学医学部産科婦人科学教室 准教授)は「子宮頸がん予防におけるHPVワクチン有効性の実証」と題し、HPVワクチンの有効性や積極的勧奨中止の影響に関する最新研究の結果について解説した。

20~30歳代の子宮頸がん罹患率が急増

まずは、日本における子宮頸がんの罹患率(上皮内がんを含む)を年代別に示したデータ(図)を示す。2015年では20~30歳代の罹患率が急増している。このような状況にありながら、ご存じのようにHPVワクチンは2013年に定期接種プログラムに組み込まれたにもかかわらず、間もなく積極的勧奨が中止された。そして、現在9年が経過したが、ワクチン接種率の低い状況が続いている。

<年代別の子宮頸がん罹患率>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

HPVワクチンの効果 世界各国から報告

近年、世界各国でHPVワクチンの効果に関するさまざまな報告がされている。HPV感染の減少はもちろんのこと、前がん病変の減少が報告され、さらに2020年にはスウェーデンにおいて浸潤がんの減少も報告された。このように、世界的にはすでにHPVワクチンの効果はほぼ間違いないと分かってきたのだ。

<HPVワクチン効果に関する世界の報告>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

国内からも「前がん病変・組織診異常の減少」報告

このような状況のなかで、日本でも国内各地あるいは全国規模の子宮がん検診のデータを用いてさまざまな報告が出ている。さらに、2021年には全国31自治体のデータによって前がん病変の減少が示された。

<HPVワクチン効果に関する国内の報告>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

そのデータを詳しく見てみよう。全国の20~24歳、9万人を対象にして組織診異常を解析した症例対照研究では、HPVワクチン接種により対照群と比較して前がん病変、すなわちCIN1(軽度異形成)以上、CIN2(中等度異形成)以上、CIN3(高度異形成)/AIS(上皮内腺がん)以上の起こりやすさがどの程度減少したかを調べた。

本研究の結果をまとめたものが以下の図である。

<全国20~24歳の組織診異常の調査>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

CIN1以上の起こりやすさは42%に減少し、CIN2以上の起こりやすさは25%に減少した。CIN3/AIS以上についても19%に減少していたが、症例数が少ないことから統計的な有意差を認めるには至らなかったものと思われる。

大規模疫学研究「NIIGATA STUDY」――性的活動性で調整して解析

このように、国内でも全国規模の研究で前がん病変の減少というHPVワクチンの効果が徐々に示されてきた。そのような状況の下、新潟大学は「NIIGATA STUDY」と題し、HPVワクチンの有効性を評価するための大規模疫学研究を新潟県内で行っている。

本研究は、20~26歳の子宮頸がん検診の受診者を対象にしたものだ。がん検診の検体を用いてHPV検査を行うとともにアンケート調査を実施し、HPVワクチンの接種歴(種類含む)と性的活動性(性経験人数、初めての性経験の年齢)を聴取した(回答率90%以上)。また、自治体からはHPVワクチンの正確な接種歴(回数、時期など)の情報提供を受けている。

これまでのHPVワクチン有効性に関する研究は、そのほとんどががん検診のデータによる後ろ向き研究であった。一方、NIIGATA STUDYは現場でのアンケート聴取により性的活動性の情報を加えることで、より正確な統計解析を行える。その点が本研究の強みといえるだろう。

研究の解析対象と公費接種世代をまとめたグラフ(図)を示す。

緑色の部分は公費接種の対象世代で、HPVワクチン接種率が高い。一方、濃いグレーで塗った部分は、積極的勧奨の中止によってHPVワクチンの接種率が低下する世代である。研究がスタートした2014年度に21歳となる世代、2020年度に20歳になる世代のHPVワクチン接種率は低い。

<HPV感染に関する解析対象と公費接種世代>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

次にHPVワクチンの感染予防効果を示すグラフ(図)で研究の結果を示す。

対象は20~22歳の女性2,197人で、HPV16型・18型の感染予防効果についてはワクチン接種群で0.1%、非接種群で2.2%であった。HPVワクチンの有効率は93.9%と高い数字を示している。またクロスプロテクション(交叉防御効果)についての解析では、HPV31型・45型・52型の感染予防でもHPVワクチンの有効性が67.7%となり、有意な効果を認めた。

クロスプロテクションの解析をさらに細かく見てみると、HPV31型・52型では単独で有意な効果が認められている。また、HPV45型では有意とはいえないが、HPVワクチンを接種した方での感染が0.0%であった。ただHPV33型については、接種者でも感染者が認められ有意差もないことから、クロスプロテクションの効果は低いことが示唆されている。

<HPVワクチン クロスプロテクション効果の解析>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

積極的勧奨中止で感染率再上昇

続いて、積極的勧奨が中止された世代でどのような影響が出ているのかを示すリアルワールドデータについて解説する。

対象は20~21歳の女性3,795人である。年代ごとのHPVワクチン接種率とHPV感染率を見てみると、2014年の接種率は低く、2015年からは上昇し、2019年までは90%前後に達した。ところが、2020年には積極的勧奨中止の影響で再び大幅に低下している。

HPV16型・18型の感染率の推移を見てみると、2014年には感染率が1.3%であったのに対し、2015~2019年の感染率は全て0.5%以下にとどまり、2017年に至っては0%を示している。しかし2020年に感染率は1.7%に再び上昇し、ワクチン導入前の世代と同じような感染率に戻ってしまったことが分かる。

次に、HPVワクチンが公費接種に導入される前の世代から公費接種になった世代で感染のプロファイルがどのように変化したのかについてである。公費接種世代ではHPV16型が激減している。ただ、その一方でHPV58型が上昇しているというデータも出てきた。本調査の結果を見ても、公費接種世代ではHPV52型・58型の感染率が高い。このHPV52型・58型は9価ワクチンで感染予防が可能である。

ワクチン接種によりHPV16・18型に関連した細胞診異常を認めず

次は、HPVワクチンの前がん病変の予防効果について。対象は20~26歳の女性4,207人で、細胞診異常(HSIL+)の予防効果を調査した。その頻度はワクチン接種群で0.11%、非接種群で0.94%であり、ワクチンの有効性が示されている。

さらにその中でHPV16型・18型に関連した細胞診異常(HSIL+)について見てみると、ワクチン非接種群の頻度が0.36%であるのに対し、ワクチン接種群で0%と細胞診異常を認めなかった。この結果から、HPVワクチンは明らかに細胞診異常の予防効果があると考えている。

ワクチンの効果、性的活動期までの持続を確認

最後に、HPVワクチンの効果がどれくらい持続するのかというデータ(図)を提示する。これは、我々の研究チームが行った先行研究においてHPV感染を年代別に調べた結果である。オレンジ色の棒グラフがハイリスクHPV陽性、赤色の棒グラフがHPV16型・18型陽性を示し、共に23~26歳が感染のピークであることが分かる。少なくともこの世代まではワクチンの効果が持続していなければならないといえる。

<年代別のハイリスクHPV感染>

関根氏講演資料より(提供:関根氏)

次に、25~26歳の女性430人を対象にした解析の結果を示す。まずHPV16型・18型の感染率はワクチン非接種群で5.4%であったのに対し、接種群は0%と感染者を認めなかった。またHPV31型・45型・52型の感染率はワクチン非接種群で10.0%、接種群で3.3%と、有意にクロスプロテクション効果が持続されていた。

結論――浸潤がん予防効果の実証求められる状況に

まず20~22歳を対象とした調査でHPV16型・18型に加えて、HPV31型・45型・52型の感染に対してHPVワクチンの効果が示された。そしてその効果は、ワクチン接種後9年目となる25歳までは持続しているようだ。

また20~21歳におけるHPV16型・18型感染率の年次推移を見ると、2015~2019年にいったん低下を認めたにもかかわらず、積極的勧奨中止によりその後の世代で再び感染率が上昇を始めている。

本邦において現在、HPVワクチンの前がん病変に対する有効性がさまざまな手法で実証されてきている。今後、浸潤がんに対する予防効果の実証が求められている。

講演のまとめ

・日本の若年女性で子宮頸がん罹患率が急増している

・世界の報告によればすでにHPVワクチンの効果はほぼ間違いないことが分かっている

・国内でも前がん病変の減少効果が認められている

・積極的勧奨の中止によりHPV感染率が再上昇している

・大規模疫学研究でHPV16/18型、31/45/52型の感染予防効果が示された

・上記研究でもHPVワクチンの前がん病変に対する予防効果があると分かった

・HPVワクチンのHPV感染に対する効果は接種後9年の25歳までは持続するとの解析結果が出た

・今後は浸潤がんに対する予防効果の実証が待たれる

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