2021年11月04日掲載
医師・歯科医師限定

【論文紹介】Induced organoids derived from patients with ulcerative colitis recapitulate colitic reactivity(1700字)

2021年11月04日掲載
医師・歯科医師限定

札幌医科大学医学部 消化器内科学講座 特任助教

平山 大輔先生

タイトル(和文)

潰瘍性大腸炎患者由来のオルガノイドは元の腸炎の性質を反映する

論文の選択理由

潰瘍性大腸炎(UC)は、主に若年~成人期に発症する大腸の炎症性疾患であり、本邦においてその患者数が近年増加の一途をたどっている。また若年者に多く発症するため、生涯治療の継続が必要とされる難治性疾患である。潰瘍性大腸炎の発症には、粘液の分泌不足、間質から分泌される可溶性の炎症性サイトカイン、上皮バリアの透過性亢進、腸内細菌叢、遺伝的要因などが関与されていると考えられているが、いまだ根本的治療は確立されてはいない。

オルガノイドとは、特定の組織もしくは器官を対象として、以下の条件を満たすものである。

1.構成する特異的細胞種が複数存在する

2.組織構造が立体構造上の類似性を持つ

3.器官特異的な機能を有する

オルガノイドを作製することにより、in vitroでin vivoを再現することが可能となり、より生体に近い実験ツールとして近年着目されている。現在、我々の研究室でもIBD患者からオルガノイドを作製し研究を進めている。今回紹介する論文ではiPSC化の技術を併用することで腸管上皮成分と間質成分の両者を含むオルガノイドを作製するという新たな実験手法が報告されていることから選択に至った。

要旨

・潰瘍性大腸炎患者6名と正常人5名から、生検もしくは外科切除検体より線維芽細胞を採取し、induced Pluripotent Stem Cells(iPSCs)を樹立した後、上皮成分と間質成分の両者を含むオルガノイドを作製した。

・潰瘍性大腸炎患者から作製したオルガノイド(induced human UC organoids:iHUCOs)は、腺管の重層化や酸性ムチンの分泌低下、杯細胞の減少、Ki-67の発現亢進など、元の生検組織と同様の特徴を示した。また、接着結合(adherens junction)に関連している細胞膜へのβ-cateninやE-cadherin、RhoAの発現の亢進や、密着結合(tight junction)に関連しているClaudin1の発現低下を認めており、透過性の亢進も確認された。

・作製したオルガノイドを免疫不全マウス(NSG mouse)の卵巣へ移植してゼノグラフトを作製することでin vivoにおける性質も確認したところ、上記と同様の傾向が確認された。

・作製したオルガノイドに対してトランスクリプトーム解析を行ったところ、iHUCOsでは「炎症や免疫反応」、「創傷治癒」、「細菌への反応」に関わる遺伝子の発現が亢進していた。また、生検で得た線維芽細胞に対してもトランスクリプトーム解析が行われ、潰瘍性大腸炎患者由来の生検組織において、「炎症反応」、「免疫細胞の遊走」に関わる遺伝子の発現が亢進していた。

・上記のトランスクリプトーム解析において、iHUCOsではケモカインの1つであるCXCL8/CXCR1の発現の亢進を認めた。オルガノイドの樹立過程の途中でCXCR1のインヒビターであるrepertaxinを投与すると、iHUCOsにおいてはCXCL8/CXCR1の発現低下に加えて、腺管の単層化やβ-catenin、E-cadherinの細胞質への分布を認め、正常人由来のオルガノイドの性質に近づいた。

以上より、iPSCs化を経ることで腸管上皮成分と間質成分の両者を含むオルガノイドを作製することができるが、元の潰瘍性大腸炎の性質をよく反映しており、将来的には個別化医療や、さらには再生医療への応用も期待される。

議論や解釈

・オルガノイドの樹立手技の途中、スフェロイドからオルガノイドへ分化する段階で間質細胞が出現しているが、間質細胞の発現に重要である試薬/手技の具体的な解説があると、研究者としてはありがたいと思われた。

・論文中において、今回作製したオルガノイドは個別化医療のほか、将来的には再生医療への応用の可能性も論じられていた。作製したオルガノイドが元々の潰瘍性大腸炎の性質を反映するのであれば、オルガノイドの移植前に何らかの処置が必要なのかもしれない。

論文からの学び

近年、オルガノイドが注目を浴びつつあり、本論文はiPSC化の技術を併用することで腸管上皮成分と間質成分の両者を含むオルガノイドを作製したものである。さまざまな技術の進歩から、よりいっそう、in vivoに近い環境をin vitroで再現することが可能となっており、今後の炎症性腸疾患の病態解明に役立つことが予想される。また、本論文の手技はそのほかの消化管疾患にも応用が利く可能性がある。

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