2024年07月16日掲載
医師・歯科医師限定

「手術ディベート」など多彩なプログラム―第66回日本婦人科腫瘍学会学術講演会、7月18日から鹿児島市で開催

2024年07月16日掲載
医師・歯科医師限定

鹿児島大学医学部産科婦人科学教室 教授

小林 裕明先生

Next innovation toward paradigm shift」をテーマに、日本婦人科腫瘍学会は202471820日、鹿児島市の城山ホテル鹿児島で第66回学術講演会を開催する。目まぐるしい勢いで治療が進化する領域で、次のパラダイムシフトを見据えた最新の知見に触れることができる。会長の小林裕明・鹿児島大学医学部産科婦人科学教室教授は長年にわたり婦人科がん領域の手術に取り組み、ロボット手術も数多く手がけてきたことから、本会では手術についても多彩なプログラムが予定されている。小林会長に会の見どころに加え、婦人科腫瘍領域における学会の役割などについて聞いた。

 「次のパラダイムシフト」の契機に

がんの治療に関してはここ数年、ゲノム医療、分子標的薬、ロボット手術など、内科・外科を問わず510年単位で“常識”が変わる「パラダイムシフト」が起きている。初期がんを中心に行ってきた腹腔鏡によるMISMinimally Invasive Surgery:低侵襲手術)は、ロボットの登場によって高難度手術も容易になってきた。10年後には、ほとんどの外科系手術はロボットで行うようになるのではないかと思っている。

私たちは約3年おきに婦人科がん治療ガイドラインを改定しているが、それでは追いつけないほど、標準治療における変化のスピードが速まっている。そこで、本会を婦人科がん医療における次のパラダイムシフト(維新)の契機にしたいと考えている。ポスター中央には、英国文化を学ぶために派遣した「薩摩藩遣英使節団」のモニュメントを配置した。婦人科腫瘍に関わる若い医師に、ぜひ婦人科がん医療の“新時代”にふさわしいニューパラダイムを作ってもらいたい。進取の気質を持ち、明治維新の中心となった薩摩藩の流れをくむ鹿児島で、そのような学会を開催したいとの思いをテーマに込めた。

 「手術」テーマで“会長らしさ”出す

学術講演会では、先ほど述べたゲノム医療、分子標的薬、ロボット手術という新たな分野のトピックスをシンポジウム、ワークショップに組み込んでいる。加えて、私は国内では「手術が大好きな産婦人科医」とみられているので、会長企画の手術ディベートを毎日1コマずつ行い、私の“独自性”を出した。標準手術が確立していない領域について、「子宮頸部に原発巣が限局する頸がんIIIC1r期はCCRTか広汎全摘か?」「腫瘍径2cm前後の子宮頸がん摘出術式は?」「開腹所見+術中迅速病理診で、進行期IIBが想定される明細胞卵巣がんに対してリンパ節郭清を行うか?」という3つのクリニカルクエスチョンを立て、複数の選択肢のうちどれを選択すべきか討論する。演者は自分が主張する案を肯定するプレゼンテーションを行い、自分の選択肢に聴衆を賛同させるようディベートする。

会長講演も「婦人科手術におけるNext Innovationを目指して」というタイトルで手術について話す予定だ。私は根治性を担保しながら、がん患者により優しい手術ができれば理想的と考え、手術支援ロボットも先進的に取り入れてきた。術後のQOL低下を招く下肢リンパ浮腫の原因となる骨盤リンパ節郭清を省略できるように、センチネルリンパ節を術中生検する手術をロボットでは国内で初めて実施した。この生検術式の保険収載を目指したが、2024年の診療報酬改定では残念ながら外陰がんにしか保険適用とならず、次回改定に期待している。

さらに、鹿児島大学は手術支援ロボットda Vinciに加え、国産ロボットhinotori2022年に導入、同年ロボット手術センターを設置し、初代センター長を拝命した。hinotoriでは世界初の婦人科術者と見学施設認定を受け、日本婦人科ロボット手術学会の理事長としても婦人科ロボット手術の普及に努めてきた。講演では、ロボットを含め、私における婦人科手術の革新について話す予定だ。

また、新たな治療や臨床試験に取り組んでいる欧米の専門家や、韓国をはじめとするアジアの各国を含め、海外から100人弱が参加する予定である。そこで1920両日は第6会場を終日、英語の講演プログラムでまとめ、国内外の学術交流を深める場とした。

可能な範囲でオンラインにより発表を配信するが、学術講演会の魅力は現地で直接顔を合わせて討論し、親交を深めることにある。ぜひ鹿児島の地にお集まりいただきたい。

 学会の果たすべき役割は

当学会が果たすべき役割としては、主に以下の5つがあると考える。

  1. )各種婦人科がん治療ガイドライン出版による国内がん治療の均てん化
  2. )新たなイノベーションを目指した基礎・臨床試験の推進・助成
  3. )婦人科がんに関する若手教育・専門医制度
  4. )最新医療情報の発信・周知(対医師、対国民)
  5. )国内外の他学術団体との連携による相互発展

1.)に関して、われわれは早くからがん治療ガイドライン作成を手掛け、婦人科の三大がんである子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんに加え、まれな外陰がんや腟がんのガイドラインも作成した。これは学会の重要事業で、目指したのは「国内治療の均てん化」である。日本では保険診療のおかげで国内どこにいても同様の標準治療を受けられる。それが、エリアによって治療レベルに差が出ないようにすることが“均てん化”である。ガイドラインは約3年おきにアップデートを繰り返している。

2.)は、臨床試験では多くの施設で国内患者を多数集め、より精度の高いデータを得ることが肝要であるが、学会はそうした臨床試験を取りまとめたり、助成したりしている。

3.)に関して、産婦人科医になると将来、妊娠・分娩を管理する周産期、不妊症にも関わる生殖内分泌、女性のヘルスケア、婦人科がんの4つの中からサブスペシャルティを選択する。本学会はそのうち、婦人科がんを目指す若手をきちんと教育し、“お墨付き”を与えた良質の婦人科腫瘍専門医を輩出することを日本専門医機構と協力しながら実施している。

4.)については、新薬の効能や副作用に関する情報提供、手術認定施設や認定術者要件の変更などの情報をいち早く周知させるために、学会のウェブサイトで適時公開している。一般の方向けに婦人科領域のがんやHPVワクチンなどをテーマに、分かりやすい解説を患者向け動画アニメーションなども駆使して提供しており、これも学会の大切な使命である。

5.)に関しては対外的に、「婦人科がんの国内窓口は当学会」であることをしっかり示し、韓国をはじめとするアジアや欧米の婦人科がんの関連学会と相互に連携している。その結果、幅広く世界から最新の知見を得ることが容易になるだけでなく、新薬が早く国内承認されることもある。

 HPVワクチンキャッチアップ接種、“最後の機会”を逃さぬよう県民公開講座

子宮頸がんの予防につながるHPVワクチン接種が進まないことは、学会として取り組むべき重要な喫緊の課題だ。20224月、約9年ぶりにHPVワクチンの積極的勧奨が再開されたが、定期接種を受ける人の割合はいまだ34割にとどまる。さらに、積極的勧奨が控えられていた間に定期接種を受けなかった女子たちに対するキャッチアップ接種率は惨憺たる状況だ。この世代の娘をもつ親御さんには、定期接種開始直後にメディアで流れた「接種後の多様な症状」を呈した方たちの印象がいまだに残っている。この症状は、ワクチンが原因とは科学的に証明し難いと結論付けられたが、接種の進んだ諸外国ではすでに浸潤子宮頸がんも減っているのに、日本だけが取り残されて、“子宮頸がん大国”になりそうである。

キャッチアップ接種に対する公費補助は20253月で終了する。HPVワクチンは3回の接種が必要で、打ち終わるまでに約6カ月が必要なため、遅くともこの9月には1回目接種を開始する必要がある。そうしたことから、学術講演会とは別の98日に鹿児島市内で県民公開講座を開き、子宮頸がんの悲惨さとHPVワクチン接種の重要性を訴える予定だ。

 安心して患者さんの前に送り出せるのは「患者第一」に行動できる医師

産婦人科は赤ちゃんが生まれ、たくさんの患者に「おめでとう!」と言える珍しい診療科だ。内科や外科が疾患や臓器別に細分化されていく中、産婦人科は前述の4つのサブスペシャルティに分かれるにしろ、“ゆりかごから墓場まで”女性の一生を診る広範囲をカバーする診療科だ。医師数が足りていないので、その分自分がやりたいと思ったことがいくらでもできる余地があるのも魅力だと思う。

私は家族にも親族にも医師はおらず何のしがらみもなかったため、自分のやりたいこと、興味がある分野を自由に選ぶことができた。やるならば難しい病気相手が良いとがん治療に興味を持ったが、婦人科がんは治療が効いて延命する方が多いことから、やりがいがあると婦人科がん専門医の道を選んだ。若いうちはお産もたくさん手掛けた。当初からずっと心掛けてきたのは「患者ファースト」の信念だった。自分の都合でお産を昼間に誘導することは恥ずべきことと考え、自然にお産が始まったら駆けつけるというやりかたを貫いたため、家族には苦労を強いた。

大学院を終えてカナダに留学し、帰国後は九州大学の産婦人科で診療をしながら、経験を積むと、少しずつ婦人科手術の開発も試みてきた。大学院から始めたがん治療薬の開発研究は今でも続け、新薬を実臨床に届けたいと願っているが、自分が“next innovationを最も目指して取り組んできたことは、婦人科の手術分野だったと思う。

患者ファーストの生活を送るのはつらいことも多いが、一度でもその信念を変えたら自分の“医師としての誇り”はなくなると思い、がんの手術もお産もすべて患者に喜んでもらうことを第一義に取り組んできた。青臭いかもしないが、高校生や予備校生向けに頼まれる講演ではいつも、「単に“成績が良いから医学部に行く”と言うのはやめてほしい。患者さんに感謝されることを喜びとする人だけ医師になってほしい」と述べている。今まで関わってきた後輩や教室員たちを見ていて、安心して患者の前に送り出せるのは、患者ファーストで振舞える医師だとずっと変わらず思っている。

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