2021年11月29日掲載
医師・歯科医師限定

【論文紹介】NASH limits anti-tumour surveillance in immunotherapy-treated HCC

2021年11月29日掲載
医師・歯科医師限定

札幌医科大学医学部消化器内科学講座 講師

阿久津 典之先生

タイトル(和文)

NASHは肝細胞がんの免疫療法における抗腫瘍監視機構を制限する

選択理由

免疫チェックポイント阻害薬である抗ヒトPD-L1ヒト化モノクローナル抗体アテゾリズマブと分子標的治療薬である抗VEGF(血管内皮細胞増殖因子)ヒト化モノクローナル抗体ベバシズマブ併用療法が、2020年9月25日に切除不能な肝細胞がんに対して適応追加となり、本邦で使用可能になった。それまで標準治療とされていたソラフェニブとのランダム化比較試験の結果、アテゾリズマブとベバシズマブ併用療法を施行した群はソラフェニブ投与群と比較し、有意に生存期間を延長した。現在、切除不能肝細胞がんにおいて一次治療の薬剤となっている。一方、肝細胞がんは本邦の人口動態統計がん死亡データによると、2019年時点で死亡数第5位といまだに多くの患者がいる。近年、本邦ではウイルス肝炎を背景としない非B非C型肝がんが急増している。肥満人口の増加に伴い非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)が増加しており、肝炎や肝線維化をきたす非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)からの発がんの割合が増えてくることが予想される。

そうしたなか、NASH由来の肝細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬に関する報告は非常に重要と考えられる。

要旨

・長期間コリン欠乏高脂肪食で飼育したマウス(NASHモデルマウス)の肝臓は、通常食の対象マウスと比較し、CD8陽性細胞およびPD-1陽性細胞が増加していた。

・NASHモデルマウスは、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)を行うと、対象マウスと比較しT細胞の活性や分化、TNFシグナル、NK細胞の活性に関わる遺伝子発現が亢進していた。

・NASHモデルマウスに13か月間高脂肪食を与えると、30%に肝がんが発生する。肝がんを発生したマウスを、その後何も投与しない群と免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体を投与した群に分けて検討した。15か月時点で肝がんの状態を観察したところ、何も行わなかったマウスは24%に腫瘍消失を認めたが、抗PD-1抗体を投与した群では腫瘍消失を認めなかった。さらに、抗PD-1抗体投与群では、肝臓の線維化や炎症および、がんが進行していた。抗PD-1抗体投与マウスでは、対象と比較しCD8陽性細胞が有意に上昇していた。

・NASHモデルマウスに抗PD-1抗体を投与した群と、対象としてIgGを投与した群に分けて解析し、抗PD-1抗体投与群では肝内にCD8陽性かつPD-1陽性かつTNF陽性細胞、あるいはCD8陽性かつPD-1陽性かつCXCR6陽性細胞が増えていた。また、NASHの進行を病理学的に評価するNAFLD activity score(NAS)は抗PD-1抗体投与群で対象群と比較し悪化していた。さらに、抗PD-1抗体を投与したNASHモデルマウスは、44匹中33匹(75%)に肝がんを発症した。これは対象の87匹中32匹(37%)と比較し有意に多い結果であった。

・次にヒトの検体を用いて同様の検討を行ったところ、NASHモデルマウスと同様の遺伝子変化がヒトのNASH患者で起こっていた。また、肝組織中のCD8陽性かつPD-1陽性細胞は対象群と比較して増えていた。

・免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体を用いた臨床試験3試験(CheckMate-459、IMbrave 150、KEYNOTE-240)のサブ解析の結果をみると、非ウイルス性肝炎を背景とした肝細胞がんでは、生存に寄与するハザード比が0.92[95% CI 0.77-1.11]であり、効果に乏しい結果であった。また、12施設でNAFLD合併症例と非合併症例の免疫チェックポイント阻害薬の効果を比較したところ、NAFLD合併症例では有意に予後が悪かった。異なる施設でも同様の検証を行ったが、同じ結果であった。

以上より、NASH由来の肝細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果は得られにくい可能性がある。また、NASHの患者に対し免疫チェックポイント阻害薬を使用すると、肝障害の増悪や肝発がんのリスクが高まる可能性が考えられる。

解釈・議論

・NASH由来の肝細胞がんには免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できず、逆に肝炎や肝線維化の悪化、がんの進行が生じる可能性があるということを示す論文であった。

・現在、アテゾリズマブは切除不能肝細胞がんの標準治療となっている。近年、肝炎ウイルスの感染がない非ウイルス性肝がんが増加していることを考えると、免疫チェックポイント阻害薬を使用する際に、その症例がNASHかどうかを加味した治療選択が必要かもしれない。

・長期間コリン欠乏高脂肪食マウス以外にもNASHモデルマウスは複数存在するため、ほかのモデルで同じような変化を認めるかは不明である。

・ヒトのNASH症例で、NASHモデルマウスと同様の遺伝子変化やCD8陽性およびPD-1陽性細胞の増加があったが、それが発がんに直接関わるかについては証明されていない。

・現在の切除不能肝細胞がんに対する標準治療は、アテゾリズマブ単剤での使用ではなくベバシズマブとの併用療法であり、免疫チェックポイント阻害薬単剤での治療ではないため、実臨床での効果は不明である。

など

論文からの学び

NASHは今後、増加をきたす疾患と考えられ、NASH由来の肝細胞がんに対する治療戦略が重要となる。また、肝細胞がん以外のがんを合併したNASH症例が増えてくる可能性が高い。そのような症例に対して、免疫チェックポイント阻害薬が病態進展に関わるかは今後の症例集積により明らかとなってくると考えられる。

今回の論文を通じて、肝細胞がんの治療検討時に背景肝の情報を把握することの重要性について認識した。またCD8陽性細胞の状態によって、免疫チェックポイント阻害薬の効果が異なる可能性があり、リンパ球の状態を考慮した個別化治療にもつながる知見であり、免疫細胞の状態を把握することの重要性について再認識した。

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